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 もちろん卯月さんもショックだった。だがそれ以上に、狂ったように泣き叫ぶ母の姿に、胸が引き裂かれそうになった。その直後、幻聴と幻覚がやってきたという。

「鏡を見たら、その中に血まみれの人がいるんです。同時に怖いおじさんの声が聞こえてきて、そのおじさんと一緒に、血まみれの人たちの成仏を試みるようになりました。自分の思考や意志、衝動・感情などが、『他者によって操られている』と感じる “させられ体験”という症状です」

本屋で成人雑誌と出会ったことで漫画家が夢に

 そんな風に病気に苦しむ一方で、保育園の頃から絵を描くことは好きだった。

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「将来は画家になりたい」と考えていた卯月さん。小学校5年生のとき、夢は漫画家に変わる。きっかけは、『劇画デカメロン』『漫画エロトピア』といった、成人漫画雑誌と本屋で出会ったことだった。

「近所の本屋のおじちゃんがどんな本でも読ませてくれたんです。そのうちに成人向け漫画の作者の熱量と筆致に感動して、男性向け成年誌の漫画家になろうと決意しました」

若かりし日の卯月さん 本人提供

 ただ、その後も統合失調症の症状は続いた。中学生になった頃には、日常生活にも大きな影響が出てきていたという。冒頭で記したように、はじめて自殺未遂をしたのも中学時代のことだ。この頃からはタバコや飲酒も始めた。だが、決して不良になったわけではなく、テストの点数がよかったときなどの“自分へのご褒美”という感覚だった。

「高校は地元で一番偏差値の低い学校へと進学しました。ところが、入学式の翌日にタバコがバレて停学になってしまったんです。その後、停学中に知り合ったヤクザの家に入り浸るようになりました」

「漫画家になりたい」という夢が現実味を帯びた高校時代

 するとそこで“事件”が起きたという。

「そのヤクザが学校の先輩たちと管理売春をして摘発されたんです。警察にチクったのが私じゃないかと疑われて、学校からは『身の安全を保証できないので退学しなさい』と言われてしまった。結果的に入学から一週間で退学になりました」

 退学後に別の高校に入り直すと、幸運にもそこでは「漫画家になりたい」という夢に向かって美術を学ぶことができた。その熱意は、職員室で「将来は漫画家になるので、国語と美術以外の授業は免除してください。ほかの教科の時間も国語と美術に充てさせてください」とお願いし、先生を困惑させたほどだった。

 一方で、私生活は相変わらず安定とは程遠い生活を続けていたという。