1ページ目から読む
3/4ページ目

 私は、ロシア軍は今回、この王道パターンで攻めてくるだろうと予想していました。ところが蓋を開けてみると、多方面からじわじわと攻めこんだ。ウクライナ軍は旧ソ連圏で第2位の軍事力を有しており、地上兵力で見ればロシアとそれほど変わらない。そのため一つひとつの正面でロシア軍とウクライナ軍の勢力がほぼ互角になり、膠着状態に陥っているわけです。

 これら2点を踏まえても、今回の戦争は、政治の介入を受けていることが想像されます。おそらく軍人の意見に対してろくに耳を傾けず、プーチンがトップダウンで始めたものの、予想外の苦戦にとまどっている。国家指導者が現場にあれこれと口出しして、軍事作戦にいい結果が出た例しはありません。独ソ戦でドイツが赤軍に敗れたのは、ヒトラーが作戦に口を出し、軍人たちの反対にもかかわらず、兵力を分散させ、時間を浪費したためでした。プーチンはヒトラーの二の舞を演じているようにも見えます。

トップダウンで今回の侵攻に踏み切ったとされるプーチン大統領

プーチンは読み違えた

 なぜ、これほどまでに生ぬるい軍事作戦を決行したのか。プーチンには大きな誤解と読み違いがあったのかもしれません。

ADVERTISEMENT

 プーチンは歴史好きとして知られています。彼の考えでは、ロシア人とウクライナ人は歴史的に「1つの民」です。つまり兄弟民族なのだと。その思想がベースとなって、「いざロシア軍が入っていけば、ウクライナ国民は歓迎してくれる」「侵攻してもそれほど大きな抵抗を受けないだろう」と考えたのかもしれません。

 また、プーチンにはクリミア併合の成功体験もあった。それほど大きな抵抗を受けずにクリミアを手に入れられた経験は、彼の思考を狂わせたのかもしれません。

 クリミアはウクライナの中でもかなり特殊な地域でした。1954年まではロシアの一部だったこともあり、「自分たちは本来ロシアの国民だ」と考える住民も多かった。また、ロシアの黒海艦隊の基地が存在するので、ロシア軍人やその家族が多く住んでいます。

 クリミア併合を分かりやすくたとえるならば、横須賀にアメリカの海兵隊が上陸したようなもの。普段からロシアに慣れ親しんでいるため、住民の心理的ハードルは低い。併合後にウクライナ海軍の副司令官がそのままロシア軍に鞍替えし、ロシア海軍提督の地位を与えられた例まであるほどです。