バンバーを外して配線をつなぐ、と聞くと大がかりな作業に思えるが、窃盗グループは高値で取り引きされる車種の構造を知り尽くしており、ほとんどルーティンワークのように盗めてしまうようだ。
「完全に弱点を知られちゃってますよね。構造を調べるために、もしかすると一度購入して、バラしているのかもしれません。昔聞いた話だと、レンタカーを借りてきて、一度バラして調べて、それから元に戻して返す、といったこともあったみたいです」
その車種の構造を把握し、最短の盗み方を形式化してしまえば、同じ方法を使い回していけることになる。
「近くのエリアで同じ車種が3台くらいずつ盗まれる、ということも多いですね。こういう傾向を見ると、最近は窃盗犯のなかでも『自分はランクルしかやらない』といった専門化が進んでいるような印象があります」
大金を得られる車種に絞って手口を効率化・高度化させているのだとしたら、オーナーにとって恐ろしい話である。
盗まれた車は戻ってくるのか?
盗難された車両は、やはり海外に密輸されるケースがほとんどであり、オーナーの元に返ってくる望みは極めて薄い。攪上氏は「自動車盗難情報局」というサイトやTwitter上で、盗難被害に遭った車両の情報を拡散し、目撃情報などを募っているが、発見された例は稀だという。
「今まで見つかった車は10台ないかもしれません。足に使う車を含めればもうちょっと見つかってますけど、ランクルとかスポーツカーなんかは5台見つかったかどうか、っていうところですね。やはり一度盗まれると、見つかる確率は非常に少ないです」
これまで見つかった車両は、盗難車両がコインパーキングなどに放置されているのを発見されるパターンが多いようだ。
「車両にGPSが付いている場合、ヤードまで行って追跡されると一網打尽になるっていうことで、それを避けるために何日かコインパーキングに置いておくこともあるらしいですね。あとは、コロナ禍になってからはとくに、船が予定通り来ないなどの理由で車がヤードに入りきらず、コインパーキングなどに停めておくこともあるのかもしれません」
現在ではTwitterなどの情報拡散ツールが普及したことで、被害に遭った車両が手の届かなくなる前に発見できる可能性は多少なり増えているのかもしれない。しかしそれでも、確率としてはかなり低いことに変わりはない。
「盗難に遭って急いで警察を呼んだら、自転車で警察が来たことにショックを受けたという人もいます。被害者としては一大事ですが、その警察側はおそらく見つからないという前提で、緊急性がないと判断したんでしょう。そういう温度差に愕然として、『盗難対策は自分でやらなければ』と考える方も多いですね」