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――「女だから」という呪縛が解けた瞬間はありますか。

矢澤 物心つく頃には父と別居して女だけの家庭になっていたので、男女差を感じずにいられました。一般的には「家族は一緒のほうが好ましい」のでしょうが、私はバラバラになった後の方がホッとして。「年齢や性別による優劣」という縛りから解放されたこともあり、気が楽になりました。

“教えてあげるおじさん”と「ああ、だから女の人がいないのか」

――そんな矢澤さんが、バックギャモンという“男の世界”で大活躍するわけですね。

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矢澤 途中から父がいなくなって「これは女/男の仕事」みたいなことを感じずに育ったこともあり、ゲーム業界に入ったあとも、女の人がいないなあとは思っていましたが、あまり気にしてなかったんです。

©文藝春秋 撮影/山元茂樹

 ただ途中から、「ああ、だから女の人がいないのか」と納得して。

――女性が近寄りがたい「何か」があると。

矢澤 これはゲーム業界に限らずの話だと思うんですけど、若い女の子が入ってくると「俺が教えてやる」みたいに男の人が群がってくる……みたいなことってしばしば起こる気がするんですよね。バックギャモンをはじめたのは大学生のときでしたが、「教えてあげる」と言ってくる男性がたくさん寄ってきました。

 これがカラオケだとしたら、自分が歌いたくて来ただけなのに、突然ボイストレーナーを名乗る人が出てきて、「君、今ここの音外したよ」と言われるようなものです。

©文藝春秋 撮影/山元茂樹

――カラオケが一気につまらなくなりますね。

矢澤 楽しく歌いたくて遊びに来ただけなのに、なんで指導してくる? という感じですよね。もしこれが男の子だったら同じ目には遭わないだろうな、とも思います。

 楽しく遊ぶだけのつもりが、「それは違う」「ここじゃなくてこっちに駒を置いたら」といちいち口を挟まれたら、誰だって「もう結構です」と立ち去りたくなるでしょう。だからゲーム業界に女の人がいなくなるんだ、と思いました。

――遊びに来る人全員が上達を目的にしているわけでもないですしね。

矢澤 ゲームって、本来楽しくないといけないと思うんです。将棋や囲碁もそうだと思うんですが、みんながみんな強くなりたくてはじめるんじゃなくて、そのゲームが楽しいからはじめたのに、業界に長くいる人は強さを求める傾向があって。他の人も自分と同じように上手くなりたいんだ、指導することが善なんだと思っている気がして、コミュニケーションが噛み合ってないと感じます。