ラジオジャーナリストのジョニーは、妹の頼みで9歳の甥ジェシーの面倒をしばらく見ることに。慣れない子供との暮らしに戸惑いながらも、ジェシーの抱える複雑な感情に触れるうち、ジョニーは自分の人生を見つめ直す。
ホアキン・フェニックスを主演に迎えた、マイク・ミルズ監督の最新作『カモン カモン』(4月22日公開)は、不器用な男と少年の心の交流を描く。過去にも自分と家族との関係を題材にしてきたミルズ監督。最新作では自身の初めての子育て経験をもとにしつつ、主人公は父から伯父へと置き換えられた。
「プライバシーを守るために実生活から少し距離を置いて描きたかったんです。考える内に子供と母親、その兄という関係を思いつきました。子育ての経験がないジョニーを主人公にすることで、僕が初めて父親になった時の感覚を描けるし、観客はジョニーと同じ視点でジェシーと出会えるはずだと思いました」
対象と一定の距離を保つカメラの動きが、伯父と甥の微妙な距離感と見事に呼応する。
「カメラの位置や構図に関しては小津安二郎監督からの影響が大きいです。僕はジム・ジャームッシュの映画を通して小津映画と出会い、間近で人やものを捉えるよりある程度距離を置いた方が、洗練された雰囲気が出て人の感情をしっかり捉えることができるのだと学びました。実生活でも僕らは常に面と向かって人と話しているわけではなく、一歩下がって物事を見ていることがよくありますよね。僕は観客に感情を押し付けるのではなく、自然とその場面を感じ取ってほしいんです」
劇中には、ジョニーと同僚の女性がラジオ番組のためたくさんの子供たちに取材し、将来の夢や家族について話を聞く場面が挿入されている。
「あの子たちは俳優ではなくて、ホアキンたちが実際にインタビューをし自由に答えてもらう様子をそのまま撮影し使わせてもらいました。ドキュメンタリー風の要素を混ぜることで、現実とフィクションの間の境界線を曖昧にしたかった。ただし気をつけたのは、子供たちの答えが映画の内容に直接影響を及ぼす形にはしないこと。例えばここには父親が刑務所にいると話す少年が出てきますが、それをジェシーやジョニーの家族関係に反映させることはしたくなかった。それは子供たちの言葉をフィクションのために搾取し利用することになるから。フィクションとドキュメンタリーを完全に合致させるのではなく、細い線でつなげることが必要でした」
虚構と現実を細い線でつなげる。それは監督の物語の作り方にも通じる理念だ。
「これまでも愛する人や家族を観察しながら物語を発想してきたし、実体験を基にするのは映画作りに重要な要素だけど、現実をそのまま描いているわけじゃない。ジョニーと妹との関係は僕と妹の実際の関係とは違うし、過去作で描いた父や母との関係についても同じ。現実から出発していても、作品はあくまで僕なりのフィクションなんです」
Mike Mills/1966年生まれ。CMやミュージックビデオの監督として活躍後、2005年『サムサッカー』で長編監督デビュー。主な監督作に『人生はビギナーズ』(10)、『20センチュリー・ウーマン』(16)など。
INFORMATION
映画『カモン カモン』
https://happinet-phantom.com/cmoncmon/