共に映画監督として活躍し、子供を育てるクリスとトニー。ある夏、二人は尊敬する映画監督イングマール・ベルイマンが暮らしたスウェーデンのフォーレ島を訪れ、それぞれ新作の脚本執筆に取り掛かる。だが島で過ごすうち二人の間に微妙な軋みが生じ始める。

 ミア・ハンセン=ラブ監督最新作『ベルイマン島にて』(4月22日公開)は、フォーレ島を舞台に、倦怠期のカップルのすれ違いと創作における苦悩が描かれる。人々の愛憎劇を辛辣に描くベルイマンと、『EDEN/エデン』を始め美しく感傷的な青春ドラマを手がけてきたハンセン=ラブ。その作風は真逆にも思えるが、彼女自身は元々ベルイマンの大ファンで、実際にフォーレ島で過ごした経験から物語が誕生したという。

ミア・ハンセン=ラブ監督 ©Judicaël Perrin

「たしかに私達の映画は全く別の性質を持っていると思うし、彼の作品に似せて映画を作ろうと考えたことは一度もありません。根本的な違いは光の扱い方です。ベルイマンの映画は恐れることなく闇の奥深くに入っていくけれど、逆に希望を象徴するような光に向かっていくのが私のスタイルです。それでも彼の作品に惹かれるのは、人間関係における闇の部分を勇気をもって追求した点、そして産業や商業というものに囚われず自分のやり方で突き進んだ姿を尊敬しているから。ベルイマンの映画には有名な『ある結婚の風景』を始め夫婦を描いた作品が多い。今回、生活と創作活動との間でバランスをとろうとする二人の関係を描いたのは、彼の映画への私なりのオマージュなんです」

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 物語の軸はクリスの作る映画の話へと移っていく。映画の中で女性監督の姿が描かれるのは珍しく、嬉しい驚きだ。

「本作は二人の映画監督のポートレイトを描こうという発想から始まりました。観客の視点は最初トニーに向けられるけれど徐々にクリスの方へ移行し、彼女の辿る道に引き込まれていきます。これまで映画製作の過程を扱った映画は数々作られてきましたが、私は映画が生まれる前段階、創作者がどういう風にインスピレーションを得て、それをどう具象化していくかを描いてみたかった。おっしゃるようにこれまで女性の監督を取り上げた作品はほぼありませんでした。ですからここに登場する監督は絶対に女性にしようと考えたんです。それによって私自身、映画を作る意欲を高めることができました」

 劇中では、私生活で結婚と離婚を繰り返したベルイマンの人生をめぐり「作家の私生活とその作品は区別すべきなのか」という現代的な問いが投げかけられる。

「脚本を書いたのは#MeToo運動が起こる前で、あの台詞は自分の中から自然と生まれてきたものです。非常に難しく簡単には答えられない問いですよね。自分の好きな作品の作家を必要以上に高く評価したくなる傾向は実際あるし。一つ言えるのは、誰であれ、個人の生活が実際どういうものか、他人には決してわからないということ。人生には外からは見えない部分が多すぎる。それが私の考えです」

Mia Hansen-Løve/1981年生まれ。17歳で俳優としてデビュー後、2006年に初長編『すべてが許される』を監督。続く『あの夏の子供たち』(09)が国内外で高い評価を受け、その後も『EDEN/エデン』(14)『未来よ こんにちは』(16)など監督作を数々発表している。

INFORMATION

映画『ベルイマン島にて』
https://bergman-island.jp/