住んでいた国の紛争や政治的な迫害から逃れて、難民として日本にやってくる人たちがいる。しかし、2020年に難民申請をした3936人のうち、認定されたのは47人。多くの人が難民認定を受けられず、「仮放免」のまま不安定な生活を続けたり、収容所に入れられたりしているのである。
ここでは、ルポライターの室橋裕和さんが2020年から2021年に日本で生きる外国人を取材してまとめた『ルポ コロナ禍の移民たち』から一部を抜粋。「仮放免」のロヒンギャ難民・アブドゥラさんは新型コロナウイルスに感染した際、病院に行くのをためらったという。(全2回の1回目/後編を読む)
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「仮放免」のロヒンギャ難民がコロナに感染
「あの日は、夕方5時くらいに友達とふたりで、ヤード(中古車などの解体作業所)に行きました。共通の友達が働いているんです。そこでちょっと話をして、それから家に帰って、8時過ぎだったかな。いきなり熱が上がって、びっくりしたんです」
そう話すのはロヒンギャ難民のモハマド・アブドゥラさん(41)。ロヒンギャとはミャンマーのイスラム系少数民族だ。しかしミャンマーでは、隣国バングラデシュから流入してきた「不法移民」であるとされ、弾圧され続けてきた。2017年には軍が苛烈な掃討作戦を行い、およそ70万人のロヒンギャが故郷を追われた。
かれらの多くはバングラデシュの難民キャンプで暮らすが、小さな船でアンダマン海を漂流してマレーシアやインドネシアにたどり着く人、サウジアラビアやパキスタン、アメリカなどに難民申請をする人もいる。
そしてごく一部、300人ほどだが、日本で暮らすロヒンギャもいるのだ。そのうちおよそ280人が、ここ群馬県の館林市に集住する。アブドゥラさんもそのひとりだが、2020年の9月にコロナに感染してしまった。
「いままでの人生でいちばん。初めてあんなに熱が出た」
あまりに苦しくて自分で測る余裕がなく、体温が何度だったかはわからないが、とにかくひどい熱だったという。それに咳も止まらない。加えて、匂いがまったく感じられないことに気がついた。
「それと、なに食べても味がしない。ロヒンギャは辛いものたくさん食べるけど、辛さもぜんぜん感じなかったよ」
いまでこそ、という感じでアブドゥラさんは笑うが、そのときは恐ろしくて仕方がなかった。病院に行こうかと思った。しかし、ためらわれた。なぜならアブドゥラさんは、「仮放免」だからだ。