「仮放免」の人が病院に行きづらいのはなぜか
仮放免とは、「難民であると申し出た者が、本当に政治的に迫害されているのか審議する間、本来ならば入管施設に収容する必要があるが、人道的な見地からこれを“仮”に“放免”し、シャバにいてもよい」とするものだ。日本に逃れてきたロヒンギャのうち、20人ほどが「仮放免」だ。
この立場は「仮」に「放免」されているだけなのだからと住民登録ができず、たとえば国民健康保険に加入できない。就労もできない。それに10万円のコロナ特別給付金も対象外だ。
医療費は全額負担となってしまうので、アブドゥラさんはふだんからケガをしても風邪をひいても、ドラッグストアで薬を買う程度。だからコロナと疑わしき事態となっても、病院に行くべきかどうか迷った。
お湯にショウガやニンニクを溶いた熱さましを飲んで、数日は耐えた。「国民皆保険」を謳うこの国で、仮放免の難民たちは住民として認められず、保険のない不安の中で生きているのだ。
しかし、ヤードで会った友人から連絡があった。彼は就労できる在留資格を持っているので解体の仕事をしているのだが、やはり発熱したという。そして保険証があるからとすぐに病院に行ってみたところ、検査の結果はコロナ陽性だった。それを聞いてアブドゥラさんも音を上げた。保健所に行き、PCR検査をすると、やはり陽性だとわかった。
すぐに隔離入院生活が始まったが、意外にもすぐに熱は下がり、症状は軽くなったという。一度だけ肺のレントゲンを撮ったが、とくに異常もなく、出される薬は咳止めのアスベリンだけ。やがて食事がとれるくらいに回復したが、
「毎日、野菜のサラダ、卵、魚、ご飯。たまに果物」
といった内容で、イスラム教徒であるアブドゥラさんに病院も気を遣って、専門的なハラル食とはいかず日本食ではあるものの、戒律に反しない魚や野菜でメニューを組み立ててくれたようだ。
「でも量が少なかったから、身体が小さくなったかも(笑)」
言葉の問題についても、「病院では、あまり話さなかったですね、ダイジョブ」。体調が戻ったので、あとは休養するだけで、医師や看護師とシリアスな話しあいをする場面も少なかった。