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 そして20人ほどがアブドゥラさんのように「仮放免」のまま「難民かどうか審議している最中」という宙ぶらりん状態で何年も過ごしている。どうしてこの人が難民として認定されて、この人が特定活動で、この人は仮放免なのか、明確な基準はよくわからない。

「日本は、ほかの国と違うから。反対側だから」

「それでもね、命があって、仕事ができるし、助かってるよ」

 アウンティンさんは言う。故郷はミャンマー国軍が2021年2月に起こしたクーデターで揺れている。軍による国民の弾圧が続き、難民の帰還はさらに難しいものになった。

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 そしてロヒンギャが多く暮らすミャンマー西部のラカイン州や、バングラデシュの難民キャンプでもコロナが蔓延する。とくに2021年7月頃からは日本と同じようにデルタ株が猛威を振るっている。

 爆発的に増えた感染者を受け入れる医療機関は乏しい。軍の無差別虐殺や逮捕、それに抗議して市民や役所の職員が職場放棄する「不服従運動」のために、コロナの前に、すでに医療崩壊していたからだ。

「これ見て、ひどい」

 アウンティンさんがFacebookに流れているという映像を見せてきた。病院らしきロビーに群衆が押し寄せ、酸素ボンベを奪いあっている様子だった。その中に家族がいるかもしれない。友人がいるかもしれない。そんな不安感を、館林のロヒンギャ難民たちは抱えている。

 アウンティンさんはアブドゥラさんたち仮放免の人々を集めて、ワクチン接種をするつもりだ。ようやく書類が届いたのだという。在留資格のある人には自治体からワクチンの通知も来るが、住民登録のない仮放免にはそれさえもない。だからアウンティンさんが自治体にかけあい、お願いして、仮放免でも接種できることになった。

「日本は、(難民を受け入れている)ほかの国と違うから。反対側だから」

 アブドゥラさんが寂しそうに言う。仮放免という立場の弱さやもろさを、コロナ禍はあらためて浮き彫りにした。

ルポ コロナ禍の移民たち

室橋 裕和

明石書店

2021年12月31日 発売