アブドゥラさんは来日15年になるのである程度の日本語はわかるし、難しい専門用語が出てくるときや入院の手続き、保健所とのやり取りは、在日ビルマ・ロヒンギャ協会のアウンティンさん(53)や、その息子のマモルくん(18)が手助けをした。このアウンティンさん一家が、館林のロヒンギャ・コミュニティを支える中心的な存在なのだ。
日本で生まれ育ったマモルくんに、入院のケアもなかなかたいへんだったんじゃないかと聞いてみた。
「ケアとか、別に……。同じ家族みたいなもんですから」
思春期の高校生らしく、ぶっきらぼうだが優しい言葉が返ってきた。
「仮放免」にはワクチンの通知も来なかった
アブドゥラさんが入院したのは10日ほど。心配していた入院費は無料だった。コロナの治療にかかるお金は公費で賄われるのだ。ただPCR検査は1万2000円かかったという。
「保険証がある人は、1000円くらいで済むみたいだけど」
問題の感染経路だが、これがなんともわからないそうだ。
「一緒にヤードに行った友達も検査したけど、大丈夫だった」
発熱の前に会ったり食事をした別の人たちも症状はない。周囲で感染したのは、アブドゥラさんと、ヤードにいた友人ひとりだけ。ヤードで働いていたほかの人々も大丈夫だった。感染しながらも無症状な人がアブドゥラさんや感染した友人の行動範囲にいたのかもしれないが、そこは不明だ。
そして回復はしたが、仮放免という立場は変わらない。
「仮放免は働けないし、10万円の給付もなかったし、私たちで生活のサポートを続けています」
アウンティンさんは言う。かれら在日ビルマ・ロヒンギャ協会と、館林市の国際交流協会が協力して、米や缶詰、野菜などの生活物資や、マスクや消毒薬などの衛生用品の支援を行っている。
とはいえアウンティンさん自身のビジネスもコロナの影響が大きい。中古車などの輸出をおもに手がけているのだが、ロックダウンしている国では港がうまく回っていないところがある。さらに海運には欠かせないコンテナが世界的に不足しているという。機能不全になっている港に滞留しているからだ。
そこに拍車をかけているのが、コロナ禍による「巣ごもり需要」で、ネットショッピングでものを買う人々が世界規模で増大し、アメリカなど物流の量が港湾の処理能力を超えるところも出てきてしまっている。