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真っ黒の遺影

 瞬間、まばたきをして再度見ると、遺影はもとに戻りU先輩の顔が写っていた。

 気分が悪い……もう失礼しよう。Yさん一行は焼香を済ませると、U先輩の家をすぐに後にした。

 U先輩宅まで送ってくれた同僚の車に帰りも乗せてもらい、同行した後輩の女性と3人で気まずい時間を過ごしたYさん。

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 真っ黒の遺影がふと脳裏に浮かび、その恐怖に耐えられなくなった彼は、ふと同僚と後輩にそのことを話してしまったそうだ。

「こんなときに……する話じゃないかもしれないけど……マジで見えちゃって」

 二人はすぐに返事をしてくれなかった。やっぱり不謹慎と思われるか……当たり前か。

「Yさん、あの、それ俺も言おうか迷っていたんですよ……」

「え? ちょっ、私も一瞬黒く見えて怖かったんですよ!」、後輩の女性が後部座席から身を乗り出す。

 Yさんは同僚たちにも黒い女の話は一切していなかったのだが、二人とも一瞬遺影が黒く塗りつぶされているように見えたそうだ。

数年後「U家葬儀」の看板に引き寄せられて

 それから数年が経ち、会社の人たちは優しくしてくれたそうだが、どうしても事故のこととU先輩のことが頭から離れなかったYさんは会社を退職し、別の会社で営業職についていた。

 職場での関係も良好で、飛び込みの営業で契約もいくつか決まり、事故のことも徐々に頭から消えて順調な日々が続く。

 そんなある日、小雨が降るなか営業車で住宅街を走っていたときに、葬式を案内する看板が見えた。

「U家葬儀」

 その日走っていた場所はU先輩の家の近くだった。その看板はU先輩一家のものなのか。

 なぜ、自分はここを走っていたのか。

 よりにもよって無意識にここへ引き寄せられたのか? あれだけ忘れようとしたのに。というか、なんで看板が出ているんだ? まさかまた……。

 そんなふうに考えているうちに、営業車をU先輩の家の側につけていた。周りには近所の人が集まっており、Yさんは車から出て、たむろしている年配の女性たちの一人に話しかけた。

「あの……すみません」

「はい?」

「私、この辺のものじゃないんですけど、Uさんと昔同僚でして……何かご不幸があったんですか……?」

「あらまぁ……そうだったんですか……」

「亡くなられたんですよ、Uさんの奥さん」

「えっ!?」

 近所の人が話してくれたところによると、Yさんが会社を辞めてすぐの頃に、U先輩の息子さんはこの家を出て、後には奥さんが一人残されたのだそうだ。

 しかし、夫の死と息子が出て行ったことが重なったためか、すっかり奥さんは意気消沈してしまい、家から出ることがめっきり減ってしまったのだという。

 そしてそんな日々が続くうちに、家の階段から転げ落ちて、首の骨を折って亡くなってしまったのだと。