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髪の長い、黒い服を着た女
町内会の回覧板を届けに来た際に、近所の人が見つけたそうだが、その時点ですでに息はなかったという。
Yさんは、早口で喋る女性たちをぼーっと見つめていた。
「あと、こんなときに言うことじゃないのかもしれないけど、気になることがあったんですよ」と女性の一人が口にした。
脳裏には黒い女の影が浮かび上がってくる。
「ここの奥さん、最近になって庭に出るようになったんだなって思ったことがあったのよ。夕方に犬の散歩しているときに見かけたから。でもね、はっきりとは見ていないんだけど、それたぶん奥さんじゃなかったんですよ!」
「え?」
黒い女はゆっくりと屈んでこちらを見下ろしている。
「髪が長~い、黒い服着た女でね、ほらこの家の人、髪短かったでしょ? だから変だなぁ~って、ねぇ?」
――どこが折れて死んでる?――
Yさんは、焼香だけでもと思ったが、そのままその場を後にしたそうだ。
◆◆◆
語り継ぐ人
かぁなっき氏は、この話を聞いたとき、収集した知人であるHさんにこう聞いたという。
「なんで、Yさんは無事だったんでしょうね」
するとHさんはしばらく考えてからこう言った。
「“語り継ぐ役がいなくなっちゃうから”じゃないですかね? 何でもかんでもいなくなったら、わからなくなっちゃうじゃないですか」
Yさんに与えられた役とは一体なんだったのだろうか……。
(文=TND幽介〈A4studio〉)