昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

先輩の遺影は黒く塗りつぶされていた… “髪の長い黒い服の女”が残した言葉の“怖すぎる”意味

「崖の黒い女」#2

2022/04/30

 怪談好きの知り合いたちを通じ、これまでに2000話を超える実話怪談を収集してきた、北九州に住む書店員のかぁなっき氏。彼は、大学時代の友人であり映画ライターの加藤よしき氏とともに、猟奇ユニット“FEAR飯”を結成し、2016年からライブ配信サービスTwitCastingで怪談チャンネル「禍話」を続けてきた。

 今回は、そんな「禍話」の名作のなかでも、人気の高い「崖の黒い女」という話をお届けする。登山の最中で出会った“不気味な存在”とは一体なんなのだろうか――。(全2回の2回目/#1を読む)

◆◆◆

“黒い女”のことを誰にも言えず

 夕暮れどきになり、警察や救助隊が駆けつけ、辺りは大騒ぎになったそうだが、当のYさんは頭がぼーっとした状態だったという。

 さっきの出来事は現実だったのだろうか。あの黒い女は現場に戻ったときには姿がなかった。

 じゃあ、なぜ、先輩は急に崖から自分で落ちていったんだ?

 どう考えてもあの女以外に原因がない。

 しかし、木漏れ日に照らされた物音ひとつない山の中で、こちらをゆっくり覗き込んだあの真っ黒な顔が、現実にそこにあったというのか?

 自分の記憶に自信がなくなっていく。

 警察に事情聴取されたYさんは、黒い女のことは伏せて、先輩から目を離した隙に崖から落ちたと説明した。

 当然不審に思われ、Yさんが突き落としたのではと疑われたそうだが、動機がなく結局は不幸な事故と話がついたという。

U先輩の葬儀へ

 事故死ということで検死もされたそうだが、特段不審な点はなく、数日が経ち、親族や会社の同僚を呼んだ家族葬の場が設けられたそうだ。

 Yさんは、いまだに現実感が湧かないなかで、同僚に気遣われながら葬儀の場に赴いた。

©️iStock.com

 U先輩には奥さんと大学生くらいの息子さんがいたそうだが、Yさんが来ると二人から異様なくらい詰め寄られたそうだ。

「よく顔出せますね! 突然あんな目に遭うなんてどう考えてもおかしいでしょ?」

「何か知っているなら話してくださいよ! 話せないことがあるんですか!?」

 感情が高ぶるU先輩の妻と息子を親族がなだめている間に、Yさんは手早く焼香を済ませようとしたという。

 小さな祭壇の上に掲げられたU先輩の遺影は、急ごしらえということもあってか、妙な切り抜き方をされた合成チックな作りで、それがさらに現実感を薄めてしまったそうだ。

 そういえばあのとき以来、先輩の顔は見ていなかった。腐葉土に突っ伏した先輩の後頭部。正面はどんな顔になっていたんだろうか……。

 抹香をつまみ、香炉の炭の上にパラパラとまく。ふとYさんは顔をあげて遺影を見る。

 遺影は真っ黒に塗りつぶされているように見えた。