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「どこが折れて死んでる?」 登山中に出会った“不気味な黒い女”に声をかけようとした先輩は…

崖の黒い女#1

2022/04/30

 怪談好きの知り合いたちを通じ、これまでに2000話を超える実話怪談を収集してきた、北九州に住む書店員のかぁなっき氏。彼は、大学時代の友人であり映画ライターの加藤よしき氏とともに、猟奇ユニット“FEAR飯”を結成し、2016年からライブ配信サービスTwitCastingで怪談チャンネル「禍話」を続けてきた。

 まるで日常の何気ない場所が一転して禍々しい気配を帯びてしまうような、その恐ろしい怪談の数々は、ホラーマニアの間でも人気を博している。また、近年はプロのホラー映画監督たちをキャスに呼んで交流を深めるなど、その実力はホラー界隈でも一目置かれるようになっているのだ。

 今回は、そんな「禍話」の名作のなかでも、人気の高い「崖の黒い女」という話をお届けする。登山の最中で出会った“不気味な存在”とは一体なんなのだろうか――。(全2回の1回目/#2を読む)

©️iStock.com

突然の登山への誘い

 この話は、かぁなっき氏の知人であるHさんが収集した90年代の話だという。

「俺、最近、登山ハマってるって言ってたじゃん」

「あー、よく行かれてるんでしたっけ?」

 Yさんとその先輩のUさんは、会社の喫煙所で休憩がてらに雑談するなかで、そんな話になったという。

「そう。でさ、提案なんだけど、今度一緒に登んない?」

「え! あー、別にいいですよ」

「お、本当? じゃあさ、プロジェクトも終わったし明日くらいに有給とって行こうぜ」

「え、明日っすか!?」

 普段からグイグイくる性格のU先輩。

 今の時代だったら“パワハラだ”なんて思われてしまうタイプなのだが、Yさんはさほど気にしていなかった。元ヤンキーながらU先輩は面倒見のいい性格なので、むしろ積極性に欠ける自分にとってはありがたい存在だな、と日頃感じていたそうだ。

 そんなYさんも、翌日にいきなり有給をとっての登山の予定に組み込まれるとは思っていなかった。

 だが、思い立ったら即実行するタイプのU先輩は、その日の帰りにYさんを自宅に呼び、自身が買い揃えていた登山装備の一式を貸してくれた。

 そして翌日、U先輩に連れられて、Yさんは本当に登山に行くことになる。

すがすがしい山の空気を味わいながら

 九州地方にあるその山は、そこまで険しくはないが、登山に慣れていない人はあまりチョイスしないような山だったそうだ。

 何度か登山経験はあったという話をしていたから先輩は誘ってくれたのかな……でも、俺が登山経験なくても先輩ならグイグイ誘っちゃいそうだなぁ。

 Yさんはそんなことを考えながら、金曜日の昼頃に二人はすがすがしい山の空気を味わい、黙々と山道を登っていた。

 鳥の鳴き声が響く。

 徐々に傾斜もきつくなり、眼下には川も流れている。

 体はきついけど、木漏れ日の中の山道は比較的涼しく、なんだかんだ来てよかったなぁ、そうYさんが感じていたときに、それは二人の眼の前に現れた。