1ページ目から読む
3/4ページ目

 ほかにマンション経営もおこなっている。事務所の壁に、西成区内にある5階建て程度のマンションの写真が6~7軒ほど貼られていたので尋ねてみると、いずれも彼らが手掛けている物件のようだった。

 従来、西成区内の集合住宅は、生活保護制度の住宅扶助基準に合致する家賃4万円台以下の物件も多かった。だが、林伝龍が扱う物件はそれらよりも高い家賃が見込めそうなマンションばかりだ。部屋を購入する客の8割は中国人だといい、投資目的で買う人も多いのだろう。

コロナ前は「バックパッカーの街」としての顔も持ちつつあった西成。確かに、新今宮駅は南海電鉄の特急で関西空港と直結。隣接する動物園前駅からは、地下鉄で難波や心斎橋のほか、新幹線が発着する新大阪にも乗り換えゼロで行ける。よく考えるとものすごいアクセスの良さだ。2022年4月10日撮影。写真:Soichiro Koriyama

「日本で4番目の中華街になるぞ」

 やがて林伝龍は、彼自身が中心となって「大阪中華街構想」を打ち出す。過去の報道を調べると、2018年夏頃から中国語紙を中心に情報が出ており、2019年2月15日には大阪華商会が中国駐大阪総領事(当時)の李天然を招いて詳しい設立構想を発表、日本人にも広く知られることになった。当時伝えられた概要は以下の通りだ。

ADVERTISEMENT

計画されている場所は、大阪メトロ御堂筋線・動物園前駅の南側で十字に広がるアーケード商店街(東西800メートル、南北1200メートル)。日雇い労働者の街・あいりん地区東側に位置する。現在ある中国人経営のカラオケ居酒屋などが、今後、料理店や雑貨店に少しずつ業態を変え、25年までに計120店を新規出店し、224億円の売り上げを目指す。伝統劇の劇場も整備するなどして1千人規模の雇用も作るとしている。(『朝日新聞』2019年2月16日)

 以上はコロナ禍の前年、大阪の街が過去最高のインバウンド客受け入れを記録していた時期の構想だった。当時について林伝龍はこう言う。

「中国人が多いから、こりゃあ中華街を作ってみてはどうか、でもどうしたらいいだろうと仲間と話していて、『中国のことは総領事館(中華人民共和国駐大阪総領事館)に聞こう』となったんだ。そこで話をしてみたら、総領事館側がずいぶん乗り気でな。『大阪に中華街ができれば日本で4番目の中華街になるぞ』と言ったんだ」

2019年当時、大阪華商会が構想していた動物園前商店街改装計画。日本国内の中国語紙『中文導報』(19年02月3期)WEB版記事より。

日本維新の会、中華街構想に大賛成

 もっとも、日本の中華街は横浜中華街・神戸南京町・長崎新地中華街の3ヶ所があるが、これらはいずれも戦前に移住した華僑コミュニティが母体で、日本社会にかなり溶け込んでいる。いっぽう、ニューカマー華僑の“ガチ中華”感が強い「大阪中華街」は、他の中華街とは質的にかなり異なる。ただ、林伝龍たちの夢はどんどん膨らんだ。

「大阪に中国人は大勢いる(注:2020年末時点で6万7229人)。インバウンドで中国から来る人たちは購買力も高い。中華街を作ったら、投資が集まるし、地価も上がるんじゃないか」

 ちなみに、このときに大阪中華街構想に乗り気になった中国駐大阪総領事は、現任の「ツイ廃総領事」薛剣(過去記事参照)ではなく、2代前の李天然である。さておき中国総領事館が乗り気になったことで、林伝龍たちは日本側とも話をつけに行くことにした。

「日本維新の会の幹部(注:インタビュー内では実名)と話をしたら『やっていいよ。西成区は人の往来がすくないから、中華街ができてにぎやかになるのはいいことだ』と、やはりOKが出た」