小さな子どもを持つがん患者は年間で約6万人
──仕事に関しても、続けるか辞めるかという議論をよく聞きます。
西口 仕事を続けたい人が続けられないのは不幸ですが、それまでの会社との関係性もあるし、その仕事が好きで続けたいのか、そうでないかでも違ってきますよね。制度や情報不足によって、会社の信頼があって本人も働く意欲があるのに、仕事を辞めざるを得なかった、というケースはあってはならないと思いますが、みんながこうしなくちゃいけない、という固定観念は必要ないと思いますよ。
──小さな子どもを持つがん患者は年間で約6万人いるといわれています。1,300人は登録数としては多いですが、子を持つがん患者全体からみると、圧倒的に少ない人数です。
西口 僕がそうだったように、どこからも情報が得られずに一人で抱え込んでいる人は、まだたくさんいると思います。がんの種類ごとや治療方法ごとの患者会のようなものはありましたが、メインが「がん」そのものではなく、がん患者が抱える悩みにフォーカスした活動で、しかも「子どもを持つ親」に限定したコミュニティは、ほかにはありません。これまでとは違うアプローチで、様々な立場の企業や団体と一緒に活動を進めていきたいと考えています。
がん患者自らがお金を生み出すシステムを作って、サービスを継続したい
──スポンサーということですか?
西口 うーん……。というよりも、個人的には、「キャンサーペアレンツ」をお金がまわる組織にしていきたいと考えているんですよね。これ言うと批判も多いんですが、僕としては、寄付金や善意「のみ」に頼るのではなく、自らがお金を生み出すシステムを作ることで、持続可能な組織としてサービスを継続していきたいんです。
──「がん患者」とはある意味、聖域ですよね。「病人を使ってビジネスを考えるのはおかしい」 という雰囲気がまだ社会には根強くあります。
西口 僕は、がん患者の就労や治療費の問題が大きな課題となっているからこそ、僕らが仕事として対価を得るのは本質的な話なんじゃないかと思っています。世間ががんのことを知らないから、働けない人や過剰に反応する人がいるのであって、がん患者が提供した情報に適切な対価が支払われるようになれば、がんに対する理解も深まるし、ビジネスとしても回るようになる。会員からの会費で賄えという話もよく聞きますが、僕はがん患者に課金するのは避けたい。
匿名でも一人ひとりの意見が重用されて、お金をもらえる仕組みが広がれば、「こんな些細なことを伝えたことで感謝されてお金ももらえるなら、カミングアウトしよう」という人も増えてくるかもしれない。そういう人が増えてくれば、がんのことを知る人がまた増えて、誤解や偏見がなくなるベースが広がっていくのではないでしょうか。