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「お互いにギブアンドテイクみたいなマインドを持って生きていくのが大切」

──「がんになったから、仕事を辞める」ではなく、「がんになったから、仕事ができる」という社会があってもいい?

西口 そんな社会を作っていけたらいいですね。がん患者は、国の保険や制度など、少なからず社会からサポートを受けています。でも、そのことを負い目に感じる必要もないと思うんですよ。たとえば仕事の場合、「会社で働かせてもらっている」と考えたら辛くなりますが、逆にがん患者を採用する時の制度作りに参加したり、同じ立場の人へのアドバイザーになったりするなど、自分から手を挙げて一歩を踏み出すことで、会社も違う形に発展していくかもしれない。

 関係性が変われば自己肯定感も高まるし、「権利を与える側と受け取る側」ではなく、お互いにギブアンドテイクみたいなマインドを持って生きていくのが大切なんじゃないかと思います。

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──ご自分ががんで苦しんできたからこそ、の気づきですね。

西口 自分ががん患者になる前はわからなかったことが実はたくさんあったな、というのも発見でしたね。会社とのつきあい方もそうですし、家族とのつきあい方も同じです。がんと診断された直後は、妻が食べ物ひとつにしても、ものすごく気を使ってくれたんですが、明らかに無理してるなって分かるんです。こっちも藁にもすがりたいので最初は甘えるんですけど、だんだん無理してもらっているのも辛くなる。

 そういう話を「キャンサーペアレンツ」ですると、「あるあるだよね!」と議論が盛り上がる。個人として自分が発信することはできなくても、僕らがみんなの声の代弁者となることで苦しみを抱えている人が少しでも楽になれるなら、やらなきゃ、って思いますね。

「1ヶ月、1週間、そして今日をすごく意識できるようになった」

──ステージ4と診断されているにもかかわらず、どうしてそんなに前向きでいられるのか、聞いてもいいですか。

西口 僕、タブーとかないんで、どうぞ何でも聞いてください(笑)。よく「元気そう」って言われるんですけど、当然体調が優れない時もあります。「キャンサーペアレンツ」を始めて1年半ですけど、数ヶ月前に会ったばかりの方が「亡くなった」という話をしばしば聞くんですね。その度に「次は自分だ」って思いますし。忙しくしているほうが、気分も楽なんです。

 でも、常に死が隣り合わせにあって、数ヶ月先も見えない状況だからこそ、この1ヶ月、1週間、そして今日をすごく意識できるようになったと感じています。つらいですけど、生きていてよかったという喜びを毎日感じながら生きている。「キャンサーペアレンツ」の活動と、支えてくれる家族やたくさんの人のおかげですね。感謝しながら、自分にできることを死ぬまで精一杯やり続けるつもりです。

 

写真=末永裕樹/文藝春秋