全く知らない女の子がこちらを見下ろしていた
「えっ?」
思わずYさんは口に出してしまった。
すると、3人がパッとこちらに顔を向けた。
「うわっ! えっ!?」
ゴトン! カチャン!
Yさんがペン立てと携帯を落とすと、ライトが部屋の暗闇を無茶苦茶に切り裂いた。
慌てて携帯を拾い、駆け出して2階に戻ろうとしたYさんが階段に差し掛かったときだった。
「どうしたんですか?」
2階からFさんの声。
「いや、え、あそこに……」
ちょっとまて――。
顔を上げて携帯で照らすと、そこにはFさんと同じ年頃の全く知らない女の子がこちらを見下ろしていた。
「もうなんのためかわかんないよねぇ」
笑っている。
パンッ! その女は笑いながら手を叩いた。
バンッ! ガチャ! ガチャ! ガチャ! ガチャ!
拍手と合わせて一斉に家中の扉が凄まじい勢いで開いた。
そこでYさんの記憶はフッと途切れたそうだ。
「入院していた母の容体が悪化したって……」
目が覚めた。
明かりの点いていないFさんの部屋には、窓の外から光が差し込んでいる。
夜が明けていた。
チチチチチチ……。
鳥の鳴き声を聞き、天井を眺めたままのYさんは思考を巡らせる。
夢?
起き上がると頭がぐらっとして、後頭部にズキンと鈍い痛みが走った。理由はわからなかったが、昨晩、気を失って頭を打った気がした。
Fさんはすでに部屋にはおらず、下にいるようだった。Yさんはゆっくりと布団から這い出し、1階に降りてゆく。
そこにはFさんと彼女のお父さんがおり、何やらバタバタと準備をしている。服装は寝巻きではなく、外出するように見えた。
「なにしてんの……?」
「あ、先輩、起きたんですね。すみません、あの、病院から今朝電話があって、入院していた母の容体が悪化したって……で、今から急遽病院行かなきゃならなくて……」
「……え?」
「すみません、せっかく来てもらったのに」
「え、どういうこと?」
「はい?」
「いや、昨日お母さんいたじゃん! 風邪引いて、マスクしてたじゃん!」
Fさんは隣にいた父を見やり、それからこちらに向き直ってこう言ったそうだ。
「ねぇ~、先輩ってちゃんと話聞いてないでしょ~?」
彼女とお父さんは笑っていた。
「……えっと、わかった。じゃあ私、失礼するから気にしないで」
これ以上、この家に居たくなかった。話を合わせて、Fさん親子から目線をそらした。