窓口のたらい回し、質問への形式的な返答、融通の効かない対応……。「お役所仕事」と聞くと、そのようなネガティブなイメージを連想する人が多いだろう。しかし、自治体管理職として働いていた秋田将人氏は、「お役所仕事には、これまでビジネスの世界で注目されてこなかった守りの技術がある」という。
ここでは、同氏の著書『お役所仕事が最強の仕事術である』(星海社新書)の一部を抜粋。「どんな成果を上げたか」ではなく「どれだけミスをしなかったか」で評価されるお役所仕事の世界から学べる意外な仕事術を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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わざと相手に見下されて、不用意な発言を引き出す
「公務員と交渉術」というと、一見あまり関係なさそうに思われるかもしれません。しかし、実際に交渉する場面は結構あるのです。
例えば、議員です。議員は、支持者・関係団体・業者などから依頼されて、様々な要求を役所に持ち込んできます。時には、エゴに近いようなものもあります。また、施設を廃止するような場合は、もし地元で反対運動が起きれば、公務員はその団体とも粘り強く話し合っていかねばなりません。施設サービスの変更や廃止などに関して、利用者やPTAなどの団体と話し合うこともあります。
さらに、自治体には一般の労働組合に相当する職員団体がありますので、管理職であればやはり交渉は必須です。この他にも、交渉相手としては民間事業者、NPO団体、他の行政機関などもあります。このように、意外に公務員は交渉する場面が多いのです。つまりこのことは、公には説明責任があり、多くの人に納得してもらわないと、行政運営ができないということの証でもあります。
こうした中で、手強い交渉相手の1つは、やはり住民でしょう。特に、保育園や幼稚園、公立小学校などに子供を通わせている保護者の中には、高学歴・有名企業勤務の方もおり、交渉が難しくなることがあります。
住民からの反発が、議員も巻き込んで政治問題に
自分が保育課に在籍していた時、公立保育園の運営を民間事業者に委託するということがありました。これは「民間でできることは、民間にやってもらう」という時代背景があり、様々な公的サービスが民間委託化されていたのです。図書館や福祉施設などの運営、学校の給食調理や警備など、様々です。こうした民間委託をする理由はいろいろあるのですが、最大の理由は、給与の高い公務員が実施するよりも、民間企業に運営してもらった方が経費が安くなるからです。
そうした中で、私は我が市で初めて公立保育園を民間委託するときの担当者だったのです。この時、市が保護者への事前の連絡や調整もなく、いきなりある保育園1園を指名して、民間委託を発表してしまいました。このため、一気に住民から反発が起こりました