これまで公務員が運営してきた保育園を、すべて社会福祉法人に委託するのですから、その急激な変化に保護者は戸惑ったわけです。「来年になって、いきなり全職員が入れ替わるなんて、子供への影響をどのように考えているのか」、「なぜ、他の園でなく、この保育園なのか」、「市はすべてを民間に丸投げして、責任を放棄するのか」とそれはひどい状態でした。議員も巻き込んで政治問題となってしまったのです。
保護者からの罵詈雑言に近い発言
しかも、この地域は先に述べたような、高学歴・高年収の方が多く住んでいる場所でした。「保護者説明会」という名の交渉は、保育園の一室で行われたのですが、保護者の言葉の端々から高学歴であることがわかり、また、厳しい発言が数多く出されました。しかも、保護者からのこうした発言を聞いていると、明らかに公務員を見下していることが感じ取れるのです。その様子をなかなか適切に表現することは難しいのですが、「私たちは、あなた方みたいな●●な公務員とは、わけが違う。●●な公務員だから、このようなことしか考えられないのだ。本当に●●だ」のようなことを内心考えているのだな、ということがわかるのです(●●にどのような文字を入れるのかは、読者のご想像にお任せします)。
しかし、そんな様子を発言や態度からうかがい知ることができても、こちらはそれに対して何も反論しません。そもそも事前調整をしなかったのは、役所の落ち度だったという負い目があったからです。また、見下されることに反論しても、こちらにとって得になることは1つもないからです。
しかし、言われっぱなしで何の返答もしないと、それはそれで「我々の発言に対して、何も答えないのか」と怒りを倍増させてしまいます。このため、こちらも保護者からの罵詈雑言に近い発言を聞きながら、反論できる準備をして機会をうかがうしかありません。
少しずつ反論し、防戦一方だった立場も微妙に変化
そんな交渉の中で相手を見下した発言を繰り返していると、調子に乗ってしまい、意外に不用意な発言をしてしまう人がいることを、発見したのです。「これは使える材料かもしれない」と思いました。それらの発言は、こちらの人格を否定したり、前後で矛盾していたりしたからです(公務員は人権研修を必ず受講しているので、こうした感覚には敏感です)。
ある程度、保護者の発言が収まった段階から、そこをゆっくりと突くわけです。「今、我々のことを、『何も考えていない、どうしようもない人間だ』とおっしゃいました?」、「先ほどは、民営化に反対しないと言われましたが、今は絶対ダメだと言っています。おかしくありませんか」などと、少しずつ反論していくわけです。こうすると、当初は防戦一方だった我々の立場も微妙に変化していき、場の空気も少し変わっていきます。こうして、少しずつ流れを引き戻していくわけです。