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手術の死亡率は極めて高いが…
これまでのオスマン帝国の慣例では、新王は即位後、王子時代のみずからの側近たちを登用し、先王の配下たちは冷遇されるのが常であった。しかし、新王のすみやかな即位を実現させたソコッルの敏腕により、スレイマン1世末期の幕僚たちは、その地位を維持することになる。
ゆえにセリムの側近たちの多くは、宮廷を離れざるを得なくなった。それは、ガザンフェルとジャフェルにとって、栄達への道が断たれることを意味する。しかし、彼らがセリムのもとに留まる方法が存在した。宦官になることである。セリムから宦官になるよう命じられたとき、彼らはその道を選んだのだった。
彼らの施術を担当したのは、宮廷の筆頭外科医である。去勢手術は非ムスリムにより、イスラム世界の外で執刀されねばならないというイスラム法の規定は、無視された。
宦官となるための手術の死亡率は極めて高い。一説には、ガザンフェルは手術を生き延びたが、ジャフェルは死亡したともいう。ただ、その後ジャフェルが官職についていることを示す史料があるから、兄弟はどちらもこの危険な賭けに成功したようだ。さすが宮廷の筆頭外科医の実力だった、とみるべきか。