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うまかった日本側の交渉術

 何よりも国民的な支持基盤の固い小泉総理が金正日国防委員長と直接首脳会談を行い、そのための準備を小泉総理から委任された外務省幹部が秘密裏に北朝鮮側と進めたという、会談と交渉の構造が効果的だったのではないだろうか。

 金大中大統領やプーチン大統領が日本の総理に勧めたように、やはり北朝鮮のような国と談判するには直接トップ同士で談判するのが最も効果的なのであろう。

 この関連で、日本側が秘密裏に進めた交渉が北朝鮮側をかなりその気にさせたのではないだろうか。正常化の際の経済協力の規模について、日本側から金額を示したことはないと伝えられている。

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 しかし拉致問題を解決し、小泉訪朝が実現すればかなり早い時期に正常化が実現し、その後、かなりの額の資金が北朝鮮側に流れてくる。そういう心証を北朝鮮の交渉者は持ったのではないだろうか。このあたりの具体的な交渉のやり取りはそう簡単には明らかにならないと思うが、そうでなければ金正日があそこまで譲歩したであろうか。それだけ日本側の交渉術がうまかったと言えるかもしれない。

北朝鮮による拉致被害者の1人、曽我ひとみさん ©文藝春秋

 北朝鮮と思いきった関係改善をしようとすると、邪魔が入ることが多い。1990年代の日朝交渉は、南北対話を優先する韓国や核問題を優先する米国との関係で円滑に進まなかった側面がある。この点、2002年の時点で韓国の大統領は金大中氏であり、日朝関係の正常化を大いに歓迎していた。

 一方でブッシュ政権は北朝鮮に懐疑的であり、政権の一部に小泉訪朝を快く思わなかった人たちがいた。それでも小泉総理とブッシュ大統領との個人的な友情が功を奏し、米国が障害になることはなかった。

 もっとも前述の通り、総理訪朝直後に北朝鮮による濃縮ウラン計画が明るみに出る。拉致問題に対する世論の硬化と相まって、日朝正常化に向けた環境は極度に悪化することになるのである。

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