アホ、ボケ、カス、産み直してもらえ……酷すぎる暴言の数々
アホ、ボケ、カス、バレーやめろ。中でも強烈なのは「産み直してもらえ」という言葉だ。「おまえは生まれたときからあかんのや」と言われた。つまり「生まれつきダメな子だ」と教師が子どもに言うようなものだ。
ただし、暴言に対する親たちの感度は低いままだった。
「(暴言を)言われるのは、子どもらがボールを拾われへんかったからや、みたいに思ってました。子どもがあかんからやと。完全に麻痺していました」(玲)
ところがその年のある日。真理と孝の息子である太郎が、初めてバレーをやめたいと言い出した。
「ぶっ殺すぞ」
低い声でAに言われたという。放課後の後に場所を変えて行う夜練でのこと。たまたま体育館にいた父の孝、沙季も聞いていた。
太郎は、練習に行けなくなった。数日休んだ後「拓海や圭太がいるから、やっぱりやめない」と口を開いた。
父の孝は太郎を連れて体育館に行き、Aに「親としてはあの言葉はいただけない」と訴えた。すると、Aは薄笑いを浮かべながら「そんなこと言ったかな」と、とぼけた。「言ったかな」としらを切り通すのは、保護者からのクレームに対する常套手段だった。
孝が意見した翌日の練習から、息子の太郎はAから集中砲火を浴びた。
「(辞めるなどと言った)おまえは情けない、弱すぎる」「おまえは仲間のことを考えられへんのか。自分勝手や」
自身の暴言が子どもを萎縮させたという反省など微塵もない。めちゃくちゃな論理で全員の前でなじられた。だが、不幸なことに、Aの不条理極まる言動に対する免疫が親子にはできていた。
何しろ、ケガをすると怒られる世界だった。バレーボールという競技では、練習中にジャンプして仲間の足の上に降りて足首を捻ることがある。そうやって捻挫して試合に出られず泣く子どもに向かって、「さぼってるからケガするんや」「おまえがぐうたらやからや」と怒鳴った。
風邪で発熱しても休めない。熱があるなどと言えば「たるんでいる」と𠮟られる。親たちはわが子が発熱すると「右(の脇)でダメなら左で計れ」と焦りまくったという。練習不参加ラインの37度5分を切るまで何度も計り直させた。
「ホント、今思えば馬鹿馬鹿しいですよね。でも休ませると、その後に子どもがボロカス言われるんです。私たち親も監督不行き届きだと𠮟られる。なので、子どもが練習を休むと、チームにご迷惑かけてすみませんって監督に謝ってました」(真理)
わが子に対する「ぶっ殺すぞ」をその耳で直に聞いた孝は、苦々しそうに言った。