近年、スポーツの指導現場におけるハラスメントが社会問題になっている。そこには、指導者による暴力・パワハラ・セクハラだけでなく、わが子の活躍のためになりふり構わない“スポーツ毒親”たちの恐るべき実態も潜んでいるのだ。
ここでは、スポーツライターの島沢優子氏が“スポーツ毒親”の姿を記した『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)から一部を抜粋。子どもが所属するスポーツチームで起こった保護者同士のトラブルについて紹介する。(全4回目の4回目/3回目から続く)
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バレーボール部に存在した謎の「3回ルール」
親同士のいさかいは他の競技にもある。全国制覇を果たしたこともある東日本の公立中学校男子バレーボール部に息子が所属していた幸則(以下全員仮名)は、入部後最初の地区大会に応援に行って面食らった。2010年代のことだ。
試合が始まるのでスタンドの席に座ろうとしたら、2年生の母親から腕をガシッとつかまれた。
「座っちゃダメでしょ。3年生(の親)が先でしょ」
聞けば、先輩の親が全員座った後でなければ、座れないという。理由は「親は子どもの見本にならなくてはならない。上下関係を学ばせるため従ってください」と言われた。ネットに近いところから、校長、保護者会代表、3年、2年、1年の保護者という並び順だった。
何より驚いたのは、観戦中にトイレに行きたくなったら、保護者会長の許可を取らなくてはいけないことだ。40代や50代の父親、母親が「すみません、トイレ行っていいですか?」
と尋ねていた。
別の日は、スマホのカメラを構えたら「何やってるの!」とスマホを下ろさせられた。
試合観戦中はカメラはおろかスマホの操作も禁止だという。親のなかにはやさしい人もいて「僕はすぐ帰るから座ってください」と言われたので座ったら、他の親からたしなめられた。
「3回言われた? 言われてないよね?」
3回言われるまで施しは断らなくてはいけないという謎の「3回ルール」が存在したという。