近年、スポーツの指導現場におけるハラスメントが社会問題になっている。そこには、指導者による暴力・パワハラ・セクハラだけでなく、わが子の活躍のためになりふり構わない“スポーツ毒親”たちの恐るべき実態も潜んでいるのだ。
ここでは、スポーツライターの島沢優子氏が“スポーツ毒親”の姿を記した『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)から一部を抜粋。西日本にある全国上位の強豪バレーボールクラブで起きた、男性監督Aによる子どもへの暴力、 暴言などを紹介する。(全4回の1回目/2回目に続く)
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強豪バレーボールクラブの男性監督Aによる容赦ない暴力と暴言
Aの行動に疑問を持つ3家族(編集部注:沙希、真理・孝夫妻、玲の3家族、4名の親に著者が取材、以下全員仮名)の息子たちは、全員小学1年生で入部。当時すでにスポーツ界、教育界が暴力根絶宣言をしていたにもかかわらず、Aから容赦なく暴力をふるわれた。レシーブ練習の際、至近距離からボールを投げつけ手を骨折させられた。顔を狙われ、避けようと挙げた手を弾かれるのだ。投げ飛ばされ、髪を引っ張られた。
親たちは「何をされるかわからない」と、頻繁に練習を見張りに行った。起きた暴力や暴言を当事者の親にも細かく伝え、情報を共有した。Aへの文句を言うことでストレスを発散し、互いに励まし合った。人はひとりの「敵」を作ることで結束することが往々にしてある。まさしくその典型だった。
息子たちが3年生になった2017年。大阪府立高校でバレーボール部の男性顧問が男子部員の顔面に向け強烈なスパイクを打ち込む動画がツイッターに投稿された。
Aは「あれ見たか?あんなん普通やろ?」と吐き捨て、親たちも同調した。沙季は「テレビニュースに出た動画を見て、私たちも、え?これで体罰なん?私たちには日々あることやけど、みたいな感じでした」と振り返る。彼らにとって、指導現場の暴力は日常的なもの。そんな感覚だった。
とはいえ、直轄のバレーボール連盟から「暴力は控えるように」との通達があったせいか、殴る蹴るは減った。ボールを投げつけるのは「暴力ではない」とAは主張し、続けられた。直接手をくだせないストレスを発散させるかのように、暴言が酷くなった。