どうでもいい謎のルールはあるのに、バレー部は放課後の練習が終わると、地域の体育館へ移動し「夜練習」を毎日行った。部活動のガイドラインでは練習時間の制限があったが、お構いなしだった。ルール破りを知っていて、親たちは体育館を予約するなどしてそれに加担した。
「それってダメじゃん、って今はわかります。でも、そのときはなんていうか麻痺しちゃっ てましたね。僕も含めてですが、子どものバレーに一生懸命になりすぎて、善悪の判断がつかなくなっちゃうんです。本当にヤバかったと思います」
その後、このバレー部はコロナ禍で学校の休校期間でも連日練習を続けた。親たちも、規則違反だとわかっていて練習に通わせたという。
スポーツに「ルール」があるように、組織に一定のディシプリン(規律)は必要だろう。それなのに、幸則の息子が所属したバレー部は、守らなければいけない規定はあっさり破る。
そして、子どもたちがスポーツをする権利も守らなかった。顧問も、そして顧問を支持する親たちも、生徒たちを単に大会で勝つための「駒」のように扱っているように見えた。
封建的な空気のバレー部の顧問は暴力、暴言は当然のようにあった。すでに体罰根絶宣言が発動され、彼らが傘下となる中体連も日本バレーボール協会もそれを採択したあとだったが、どこ吹く風といった態度で不適切な指導を継続した。
1学年十数人いた部員は毎年数人が3年生になる前に退部した。活動費用がかかりすぎることが原因の生徒もいた。
「年間50万くらいはかかったのではないか。全国大会やブロック大会に行けばもっとですね」
合宿や遠征が多かった。強豪高校に胸を借りるからと地方へ年に10回近くは遠征に行った。2泊3日ほどでおおむね1回4万円徴収される。合宿、遠征が重なると、月に10万円以上の出費になることもあった。
「経済的に(合宿の参加は)難しいです」
窮地に追い込まれた親がそう打ち明けると、保護者会長は「合宿に参加しないなら部をやめて」と冷たく言い放った。
「つまりは、払えないなら退部しろということです。ひどい話ですが、当時は、お金がかかるのは仕方ないことだ。この子たちは全国大会に行くんだから、と自分に言い聞かせてました。ただ、今にして思えば、うちの子はまだ試合に出させてもらったけど、4万円はらって3日間合宿に行かせて、3日間立ちっぱなしの子もいました。ずっと立ってるだけで4万です。親御さんは苦しかっただろうなと思いますね」
親の自己肯定感の低さが“毒親”につながる
親たちの「毒」は、指導者の暴力など不適切な指導の影響もあって生み出されたものだったと思う。活動費が年間50万円かかる公立中学校のバレー部も同様だ。だが、この章で紹介した野球やサッカーの当番問題は指導者に大きな瑕疵は見られない。
その毒はどこから染み出てしまうのか。毒の素は、親自身の自己肯定感の低さにあるような気がしてならない。以前から国際機関の調査で日本人の「自分は大丈夫だ」といった自己肯定感が他国に対し著しく低いことは度々報告されてきた。