「この理想的な心理状態に自分を持って行くよう繰り返し練習するんだ。筋肉のように使えば使うほど鍛えられる。毎日この状態に保つんだ。イエスかノーか? セイ・イエス!」
「イエス!」
拳を振り上げて観客が答えると、立て続けにロビンズが要求する。
「セイ・イエス!」
「イエス!」
会場が盛り上がってきたところで、ビートが効いたロックミュージックが流れる。それに合わせてみんな飛び上がり、ロビンズに促されるまま大きな叫び声を上げ、力いっぱい踊るのだ。
私から2席離れた場所にいるヒュー・ジャックマンを横目で見ると、拳を振り上げて「イエス!」と叫び、ちゃんと踊っているではないか。郷に入れば郷に従え、である。私も恥ずかしがらずに思い切り踊ることにした。
食事休憩どころかトイレ休憩もない
ロビンズのUPWセミナーは、「セミナー」という名称から想像するような典型的なものではない。普通の講座のように区切られておらず、朝から深夜(ときには深夜過ぎ)までぶっ通しで休憩はない。初日と3日目はロビンズが単独で一日中講演する。
参加する前から「休憩はないよ」と忠告されていたのだが、食事休憩どころかトイレ休憩もないのには驚いた。自分でおやつを持って行くか、講演の途中で抜けて会場のロビーでスープやスナックを買い、席に戻って食べるしかないのだ。一度だけ空腹に負けてスープを買ってきたのだが、日本で生まれ育った私には人の話を聞きながら食べ物を食べるのは抵抗がある。なかなか食べられなかったので、翌日からはプロテインバーをそっとかじった。周囲の人を見ると、ダンスの時間をトイレ休憩にしているようだ。
座って聴いているだけだと集中力が落ちることがわかっているので、ロビンズは会場のエネルギーが落ちてきたのを察知したら、大音響で音楽を流し、観客を立ち上がらせて踊らせる。また、周囲の人とマッサージを交わしたり、10人くらいとハイタッチやハグを交わしたりするアクティビティもある。これを繰り返していくうちに、最初のうち疲れた顔をしていた人が元気な笑顔になり、冷淡で距離を保っているように思えた人がフレンドリーになっていくのだから、不思議なものだ。私も「アクティビティ」という言い訳でジャックマンとハイタッチさせていただいた。
このようにして4日間睡眠不足で肉体を酷使させるのは、それぞれが持つ抵抗を崩壊させて一気に変わらせるためのテクニックでもあり、アメリカの軍隊が使う方法に似ている。観客側の私ですら疲れて何も考えられなくなっていたのに、ロビンズは一日中単独で講演を続けるのだ。その超人的な気力と体力にも彼のカリスマ性を強く感じた。