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「富裕層への増税」に反対するアメリカ人も

 だが、その一方で、収入が多い仕事に就いていないのに富裕層への増税に反対する人がかなりいることにも気づいた。彼らの多くは社会主義国の祖国を見捨てた中南米や東欧からの移民だった。彼らはミドルクラスや貧困層のアメリカ人よりも「アメリカンドリーム」を実現したスーパーリッチに共感し、自分か自分の子どもがいつかそこにたどり着くと信じているようだった。

 彼らは愚かなのではない。前述の世界の富豪リストを見ると、トップに入っているアメリカ人にはリッチな親から資産を受け継いだ「オールドマネー」はいない。

 ゲイツ、バフェット、ザッカーバーグ、ペイジの親は高等教育を受けているが富豪ではなくミドルクラスだ。ベゾスを産んだ母は17歳の高校生で、彼を育てた義理の父はキューバからの移民だった。エリソンは生後数ヶ月でシングルマザーの母に見捨てられ、母の叔母と叔父に育てられた。マスクは南アフリカ出身で、ブリンはソビエト連邦時代のモスクワで生まれた移民だ。アメリカのスーパーリッチが自分で富を築き上げたのに比べて、フランス人のアルノーとインド人のアンバニは裕福な親の仕事を受け継いだのがスタート地点だった。

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「世界一のカリスマ人生コーチ」とはどんな人物か

 私が出会った移民がスーパーリッチに共感するのは、こういう部分だ。移民であっても、シングルマザーの子どもであっても、オールドマネーに勝てる。その可能性があるアメリカと、その「アメリカンドリーム」を信じているのだ。

 2015年に初めて参加したトニー・ロビンズ(日本ではアンソニー・ロビンズと呼ばれている)のイベントでそれを強烈に感じた。

 ロビンズは、ビル・クリントン元大統領、投資家のジョージ・ソロス、テニス選手のアンドレ・アガシ、セリーナ・ウィリアムズなど数多くの有名人をアドバイスしてきた人物であり、「世界一のカリスマ人生コーチ」と呼ばれている。

世界一のカリスマ人生コーチのトニー・ロビンズ氏(『アメリカはいつも夢見ている』より)

 貧しい家庭の出身で大学教育は受けていないのだが、17歳からの2年間に人生哲学や心理学に関する本を約700冊読み、講演やセミナーに参加して自分なりの人生哲学を作り上げた。

 まったくの無名から独自のライブセミナーでファンベースを広め、フォーブス誌が『セレブ100人』に選ぶほどの大成功を収めたという類まれな人物だ。親から援助を受けずに自力で成功したロビンズは、アメリカ人が尊敬し、英雄視する「セルフメイドマン」の典型ともいえる。新刊が出るたびにベストセラーになる著作は、日本でも『一瞬で自分を変える法』(三笠書房)などが邦訳されている。

 ロビンズを有名にしたのは、「UPW(Unleash the Power Within)」というセミナーだ。それぞれの人が内側に持っている成功と幸せを得るために必要なパワーを引き出すというもので、『一瞬で自分を変える法』に書かれていることがベースになっている。このセミナーを受講してロビンズの信念に惹かれた人が、引き続きビジネス、愛情関係、人生と貯蓄などの特別なテーマのセミナーに参加する。ビジネスを成功させたい人や、人生で挫折している人、進む道を迷っている人などが多く、参加費は決して安くないので、このために貯金をしたという人もかなりいる。