野村野球の共通言語
振り返ってみれば、野村監督は「野球心理学者」ともいうべき存在だったのではないか。この分野の開拓者であり、たったひとりの名誉教授だったと思う。
野村野球の先進性は、「野球技術と心理学の融合」にあり、監督がこうした発想にたどり着いたのは、野球について考えるのがとことん好きだったことに加え、人間観察が好きだったからだと思う。これはうがった見方かもしれないが、人間が好きだというよりは、「なぜ人間は、ときとして愚かな考えに至るのか?」という関心が高かった気がする。
その野村心理学によれば、打者のタイプについては、次のような類型化を行っていた。
A型 理想型
B型 コース型
C型 方向型
D型 ヤマ張り型
監督が考えたこの打者の類型化は、いまだにスワローズのなかに浸透している。投手コーチ陣、バッテリーが日常的に使いこなしている単語のひとつだ。
つまり、野村監督は「共通言語」を作ってくれたのだ。これは、たいへんなことである。おそらく、監督を務めたタイガース、イーグルスでも同じ発想をインストールし、言語を広めていったに違いない。
ただし、僕は監督の哲学、心理学がいちばん色濃く反映されているのが、他ならぬスワローズだと自負している。
だからこそ、「スワローズ・ウェイ」こそが、野村監督の遺伝子をもっとも色濃く反映している。
ストライクゾーンのチャート
野村監督が発明した共通言語は数限りなくあるが(いつか監督の「野球語事典」を作りたいくらいだ)、もうひとつ、野村監督が遺してくれたどでかい財産がある。
ストライクゾーンのチャートである。
かつて、監督はテレビ朝日の解説を務めていたときに、ストライクゾーンを9分割した「野村スコープ」を用いて、野球解説に革命を起こした。
これによって、対角線を基本にした配球パターンなど、野球の奥深さがテレビの前でも味わえるようになった。この9分割の手法は分かりやすく、いまだに日本、メジャーリーグの中継でも使われている優れモノだ。
ところが、スワローズに入団して驚いた。チャートは9分割ではなかった。25分割(ボールゾーンを含めると81分割)だったのだ!
野村監督は現役を引退した後の、いわゆる浪人時代に野球のことをとことん考え続け、野球言語やチャートを具現化していたらしい。すごいことだ。
ご理解いただきたいのは、テレビで用いられた野村スコープは9分割だが、スワローズ版はより細かく分割され、さらにはボールゾーンにまで及んでいる点だ。