2年連続最下位に沈んでいた東京ヤクルトスワローズの監督に就任するやいなや、的確なチームマネジメントで初年度に日本一を達成。事前の周囲の予想を覆す快挙に、プロ野球ファンは大きな驚きを覚えた。

 高津監督はいかにしてスワローズを立ち直らせたのか。ここでは、同氏の著書『一軍監督の仕事 育った彼らを勝たせたい』(光文社新書)の一部を抜粋。選手育成・運用についての考えを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

高津臣吾監督 ©文藝春秋

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負けず嫌いであれ

 向上心をもつ、あるいは負けず嫌いであることは、プロで成功するには絶対必要な条件だと思っている。

 自分のことで恐縮だが、僕がクローザーを務めていたときは、7回、8回を五十嵐亮太、石井弘寿(現・一軍投手コーチ)が投げていた。「ロケットボーイズ」だ。とにかくビュンビュン速い球を投げていた。僕にはない絶対的な武器だ。そして五十嵐、石井弘寿ともに「いつかクローザーになってやる」という野心をもっていることを、僕は肌で感じていた。俺がいる間は、絶対にやらせないと思いながら。

 誤解のないように書いておくが、このふたりとはとても仲が良かった。いまも良い。それでも仕事は別で、自分は後輩たちに負けてはいられないと思っていたし、きっと、若いふたりはいつまでもセットアッパーに甘んじてはいられないと闘志を燃やしていたはずだ。ここに競争心が生まれ、スワローズのブルペンとしてレベルが上がっていた。

 もし石井と五十嵐が、「髙津さんがメジャーリーグに行ってからクローザーになれればいいや」と思っていたら、あれだけの実力を身につけることはなかっただろう。

 誰かのポジションが空くのを待っていたり、野手であれば、試合後半の守備固めから出られればいいやと思っていたら、技術は上達しない。あくまで、ポジションは取りに行くものであり、そうしなければ自分の刺激にもならないし、チームにも活力を与えられない。

 現代の日本社会において根性論は必要ないのかもしれないが、プロ野球界においてはハングリー精神の重要性はまったく変わっていない。長いシーズン、やる気のある選手は分かる。要は、長い期間にわたってモチベーションを維持できる選手が「上」に行ける。一流と認められるのは、上で何年も結果を残した人だけだ。

 いま、ブルペンでは理想的な状況が作れていると実感している。自分が監督になってから、スワローズのブルペンにはいい意味で競争が生まれていると思う。石山、マクガフには実績があるが、清水もいつかはクローザーをやりたいと思っているだろうし、今野にもハングリー精神がある。