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二軍監督時代から変わらない“選手育成”の考え方…高津臣吾監督が明かす“コーチとして失格”な人物の共通点とは

『一軍監督の仕事 育った彼らを勝たせたい』より #1

2022/05/05
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全員が戦力になる必要性

 振り返ってみると、僕の現役時代にも同じような状況があったなと思う。

 1992年の日本シリーズでは第7戦までもつれたうえにライオンズに敗れたが、相手クローザーの潮崎哲也に手こずったこともあり、その年の秋季キャンプで、野村監督から「潮崎のあのシンカー、お前も投げられんか?」という宿題を出された。

 当時、先発投手として速球を求めていた僕に、監督は、シンカーをマスターし、リリーフに転向してみないかと提案したのだ。その話をもらい、「結構、たいへんなことを求められているな」とは思ったが、ネガティブな感情は抱かなかった。シンカーをマスターすれば、自分にはポジションが与えられるし、そうすればスワローズが強くなれる、日本一になれると確信出来たからだ。

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 こうして振り返ると、野村監督は育成に関してのアイデアはもちろんのこと、言葉の選び方も独特だったなと思う。野村監督は回りくどいことを言うのは苦手だから、言葉を飾らず、必要最低限のことを直截的に選手に伝えた。それでいいのだ。

 僕も監督として、そうありたい。選手が前向きになれるようなアイデアを出し、それを飾らない言葉で伝えたい。その背景には、他球団と比べて選手層が薄いということがある。三軍の組織をもっているわけではないから、支配下登録選手、育成選手を含め、すべての選手に活躍してもらわなければ中長期的に安定した戦力は作れない。

 たとえば、大学、あるいは社会人を経てドラフト上位で入団してきた選手が、入団して2~3年が経過してもなかなか活躍できないことがある。プロ野球の世界で生き残るには瀬戸際と言ってもいい段階だ。こうした立場の選手に適切なアドバイスをして、戦力になってもらわないと、球団にとっても死活問題である。

 そういう立場になったら、とにかくプライドを捨ててがむしゃらに野球に取り組んで欲しい。もちろん、本人にも理想像はあるだろう。しかし、プロ野球の世界はエリートの集まりであり、生身の人間がやることなので、すべてが思い通りに運ぶわけではない。

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