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 入口は湖を望む側にあり、木のドアを開けて中に入ると、そこは脱衣所で、さらに奥に浴室へと続くドアがありました。服を脱いで浴室に入ろうとそのドアを引くと、むわっとした熱気が内側からあふれてきました。浴室の中は、天井に開けられた明かり採りの窓からやわらかな光が差し込み、室内をぼんやりと照らしていました。壁には上下2段のベンチが備え付けてあり、床に置かれたすのこにいたるまですべて木製で、スギやヒノキのような良い香りが満ちていました。

 日本の風呂のように、お湯をはる浴槽はありません。そのかわり、部屋のいちばん奥には大きな鉄のストーブが置かれていて、浴室全体を高温に保っています。足もとには取っ手のついた大きなバケツが2つあって、湖の水が汲くんでありました。温ぬくもった後にそれで体を洗うのです。

 このような薪ストーブ式のサウナに入るのはこれが2度目のことでした。大学4年の夏にロシアのカムチャツカ半島を旅したことがあるのですが、そのときにホームステイをさせてもらった家族が同じように薪ストーブのサウナを持っていました。

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 ロシアでは、都市部で暮らすアパートとは別に、郊外にダーチャと呼ばれる別荘を持つことが一般的で、そこで家庭菜園をするかたわら、手づくりのサウナ小屋で入浴を楽しむのです。そのときの経験から、薪ストーブ式のサウナの入浴方法について少しばかりの知識がありました。なにもしなくても浴室内は十分に暖かいのですが、ストーブの上に置かれて熱くなった石に水をかけ、その水蒸気で浴室内を満たすことで、さらに体感温度を上げて、体の芯(しん)まで温もるのです。

 ぼくは2段に分かれたベンチの上の段に座り、手桶(ておけ)でバケツの水を汲むと、いくつもの焼けた石に向かって勢いよく水を放りました。水は石に触ふれたとたんジュワーッという音をたててあっというまに蒸発し、まっ白な湯気(ゆげ)がモクモクとたち昇りました。ほんの数秒遅れてものすごい熱気が頭の上から降りてきて、すっぽりとぼくをつつみ込みました。息を吸うと、熱気が鼻の奥に入ってきて火傷(やけど)しそうなほどでした。ぼくはうつむいて腕で顔をおおい、目をとじると、激しい熱風がおさまるのを待ちました。

 すぐに体中から汗が吹き出してくるのを感じました。熱さが一段落した頃を見はからってもう1回、水を石に向かって投げました。何回か繰り返すと、もう汗だか水蒸気だかわからないほど体も髪の毛もびっしょりと濡ぬれていました。体が温もってくると、体中の筋肉がゆるんでいくのがわかりました。呼吸はゆっくりと深くなり、蒸気の熱や肌を流れる汗など、皮膚を通して伝わってくる感覚に意識が自然と集中していきます。よけいなことを考えることもなくなり、心が深く安らいでいく感じがありました。

 しばらくして、ぼくはとうとうその熱気に我慢できなくなり、浴室から出て、脱衣所を通り過ぎ、そのままサウナ小屋の外に出ました。