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#MeTooは「著名人がいつ告発されるか怖がるムーブメント」? 加害者への“処罰感情”には何が欠けているのか

イヴァンカ・トランプに寄せられた“批判”

2022/04/30

source : 文春新書

genre : ニュース, 国際, 働き方, 芸能, 政治, 社会

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イヴァンカへの批判で火が付いた言葉「Complicit(共犯)」

 日本では少し遅れてやってきた感のある#MeTooムーブメントですが、そもそも震源地のアメリカで火がついたのは、偶然にもトランプ大統領の就任とほぼ時を同じくしていました。2017年、#MeTooムーブメントと軌を一にするように、アメリカではトランプ大統領就任翌日、大規模なWomen’s March(ウィメンズ・マーチ)が起き、そのなかで問題を捉えるための言葉が生み出されたのも印象的です。

 同意なしで「女性器を掴んでやる」という発言をしながらも当選したトランプ大統領に抗議の声を挙げるデモンストレーションでしたが、また、いかなる理由であっても人工妊娠中絶を違法にすべきというトランプ支持層の考え方への反対意見として、“My Body, My Choice”(私の身体、私の選択)というスローガンも掲げられました。性交や妊娠、そして中絶など、女性の身体に関する選択は(倫理と健康の範囲内で)女性個人に選択権があるという主張もWomen’s Marchのテーマだったのです。

 メリアム・ウェブスター辞典(Merriam-Webster)という英語の辞書が、「今年の単語」として毎年、その年を表す言葉をいくつか発表するのですが、2017年を表す言葉の代表として「Feminism」が選ばれたことは不思議ではありません。

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「Feminism」と共に選ばれた2017年を代表する言葉に、「Complicit」(共犯、共謀、加担した)」という言葉がありました。

 Merriam-Webster辞典はこの言葉を、トランプ大統領の娘のイヴァンカ・トランプの写真とともに紹介しましたが、政治的なコメディで知られるバラエティ番組「サタデー・ナイト・ライブ」(Saturday Night Live 〈SNL〉)のセグメントがこの言葉を広める原動力だった、とMerriam-Webster辞典は記しています。ハリウッド女優のスカーレット・ジョハンソンがイヴァンカに扮して、香水のCMを作るというコメディをSNLが放送しました。

「どんな男性も彼女の名前を知っている。どんな女性も彼女の顔を知っている。彼女が部屋に入るとみんなの視線が注がれる。そう、彼女はイヴァンカ」というナレーションとともに振り返って正面を向くのは、イヴァンカに扮したジョハンソン。

 さらに「フェミニスト、代弁者、“女性の活躍を支持するチャンピオン”と自称しているけど、彼女はどんな女性支援をしてるの? アメリカの方向性を変えられるはずなのに、変えない人」というイヴァンカを批判するナレーションとともに、ジョハンソンが手にした香水が紹介されるのですが、その香水の名前が「Complicit」でした。