2017年に火が付き、日本でもその流れが見え始めた#MeTooムーブメント。トランプ大統領の就任や、娘のイヴァンカ・トランプへの批判から生まれたうねりについて、ハーバード大学医学部助教授の内田舞さんはどう見ているのでしょうか。(全2回の1回目/続きを読む)
2017年に、ニューヨークタイムズ紙と雑誌「ザ・ニューヨーカー」が、映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによる数十年にも及ぶセクシャル・ハラスメントを告発する記事の発表をきっかけに国際的に火がついた#MeTooムーブメント。
長年タブーだった性暴力にメスを入れる取材と、スキャンダルの公開を阻止しようとするメディア、政界、司法界の圧力を描いたスリリングなノンフィクションが、全米でもベストセラーになりピューリッツァ賞も受賞したローナン・ファローの『キャッチ・アンド・キル』(文藝春秋)です。
それ以降、アメリカでは映画界にとどまらず、「私もセクシャル・ハラスメントや性暴力を経験したことがある」という経験を、アスリート、様々な職の一般人、学生、母親たちが#MeToo(私も)というフレーズでシェアし、いかに被害者が多い問題かが可視化されました。
#MeTooムーブメント日本到来?
5年遅れて日本にも#MeTooムーブメントの流れが見え始めています。性被害を描いた映画「蜜月」を監督しながらも、ワークショップに参加経験のある俳優たちから
性行為の強要を告発された榊英雄監督、「主演女優にはだいたい手を出した」と武勇伝のように豪語しながら、その言動が見逃されてきた園子温監督が出演女優から性加害を告発されるなど、映画界での#Me Tooが相次いでいます。
これまでも撮影現場での性被害を訴えていた女優の水原希子さん、同じ映画監督として性暴力に反対する是枝裕和監督や西川美和監督などがメッセージを発したり、山内マリコさんや山崎ナオコーラさんなどの女性作家も映画原作者として連名で声明を出すなど、ジャンルの垣根を超えてムーブメントが広がりつつあります。外側からの働きかけによって抑止できれば、という連帯の機運と同時に、「#文学界に性暴力のない土壌を作りたい」と自分事としての作家たちの発信も目にするようになりました。
性的同意年齢が他先進国よりも低く、性被害の圧倒的多数が報告されずに終わる日本においては、性被害者の発言が軽く受け流されたり、性被害が社会で真剣に受け止められにくい傾向にありましたが、その中でされた一つ一つの告発は、自分の体験をオープンに語った被害者たちの勇気を表しており、被害者たちの行動には感動せざるを得ません。それまで抱えていた苦しみも言葉にできないものだったと思いますが、加害者も目にするだろう発信をする際の恐怖もまた、想像を絶するものだったのではないかと察します。
レイプ体験を告発しても、それは勘違いなのではないか、噓をついているのではないかなど被害者も批判されるカルチャーが未だに残る中での恐怖、さらに真剣に受け止めてもらえなければ過去の傷を上塗りされ、孤立が深まるような不安もあったと思います。それでもこれまでの土壌を変えるための大きな一歩として、様々な立場で自分の性被害について公に語った方々へ、私は感謝と敬意の言葉を送りたいです。