静寂は共犯という考え方も拡散
イヴァンカ・トランプは大統領選での父ドナルドの応援演説で、「アメリカが誰でも育休を保障される国になるために」などと発言したにもかかわらず、彼女がCEOを務めた洋服ブランド、「イヴァンカ トランプ」では、従業員の産育休も保障されていなかったことが指摘されました。
また、トランプ政権の要職をあてがわれ、国際会議の席については、さも何かを考えているような顔で写真に写るが、実際のところ会議の内容に貢献できるような独自の考察や知識などを持ちあわせず、他国の出席者からは批判を受けていたのです。本来、彼女のポジションには能力や経験のある女性が就いて実務的な発言をしてしかるべきなのに、ただのお飾りに過ぎない彼女のような人がその席を奪ってしまうことで、むしろ女性の社会進出を後退させてしまっているのではないかと懸念する声が聞かれました。
また、セクシャル・ハラスメントに対するトランプの息子達のインタビューも問題視されました。長男のドナルド・ジュニアはトランプが大統領選に出馬する前から「セクシャル・ハラスメントに耐えられない女性は職場に存在すべきではない」などと発言し、次男エリックは父親のセクシャル・ハラスメント発言について、「イヴァンカが被害者の立場に置かれた場合を考えるとどう思うか」と聞かれた際、「イヴァンカは強い女性で、男性にハラスメントをされるような女性じゃない」と答え、ハラスメントとは加害者が責任を問われる言動ではなく、あたかも被害者が強ければ避けられるものであるかのような印象を与えたのです。加害者でなく被害者(特にこの場合は女性)に責任を押し付けるという認知の歪みが、メディアから指摘されました。
香水「Complicit」の偽CMの中で使われたフレーズ、「フェミニスト、代弁者、“女性の活躍を支持するチャンピオン”と自称しているけど、彼女はどんな女性支援をしてるの?」とは、まさにこのような彼女のフェミニスト気取りな空虚さを指摘したのでした。
こんなダークコメディで流行語になったComplicitという言葉ですが、社会に向けていい効果もありました。「誰かの人権が侵害されているときに、他者が何も言わないことは、人権侵害の共犯になっている」という意味の、“Silence is Complicity”(静寂は共犯)というフレーズがソーシャルメディアで拡散されたこともあり、女性差別や性被害を目にして何も声を上げない、行動を起こさないことは人権侵害を許容し、助長する一因になっているという考えが広く受け入れられるようになりました。
その結果、男性も女性も、Complicitにならないためには、そして本当の意味でのサポーター(Ally、アライ)になるためにはどうしたらいいのかという議論がされるようになりました。さらに、権利と尊厳の男女平等を主張するフェミニズムというものが、まるで男女の戦いかのように間違った理解がされることがありますが、女性差別や性被害を助長する人が男性でなく女性であることもあり、また男女問わず皆がフェミニストであるべきという考えが共有されるようになりました。子供服売り場で、「Feminist like Daddy」(パパのようなフェミニスト)と書かれたTシャツを見つけたときは、思わず私も息子のために買ってしまいました。(#2に続く)