「エロマンガには他では見られない男女の“ホンネ”が表れていると思います」
こう語るのは“エロマンガ統計屋”の牧田翠氏である。牧田氏は数千冊もの成人向け漫画の定量分析を行い、2007年に「エロマンガ統計」を同人誌として発表。以降、各年の成人向け漫画の統計や「艦これ」や「刀剣乱舞」などの同人誌、さらにはBLなど幅広い成人向け漫画の統計を発表している。
大学時代にジェンダー論を学んでいた牧田氏の統計は示唆に富むものだと、SNS上でもたびたび話題に上がっている。
「例えば男性向け作品の約90%は物語の中で射精や女性の絶頂が描かれるのに対し、女性向け作品では37%~47%しかそもそも射精や絶頂が描かれていません。ここにも男性が射精や絶頂をセックスに求めているのに対し、女性はそれほど重要視していないことが分かります」(同前)
成人向け漫画にある男女のホンネとは――。牧田氏にインタビューすると、多様に見えて実は極めて画一的な「男性のエロの実態」が見えてきた。
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ジェンダー研究への興味
――そもそも、なぜ「エロマンガ統計」を始めようと思われたのでしょうか。
牧田 大きなきっかけはジェンダー研究に興味を持ったことでしょうか。大学時代にお付き合いしていた女性に「結婚について真剣に考えてみたんだ」という一発ネタをやりたいがために、日本の婚姻制度を卒論に選びました。その中で各国の婚姻制度や同性愛について調べていくことで、ジェンダー研究に興味を持ったんです。
――ずいぶん思い切った選び方ですね。
牧田 結局、その女性には体よく振られてしまいました(笑)。それでも、ジェンダー研究への興味は変わりませんでした。大学院に進んでからは社会心理学を学んだのですが、担当教授がBLの研究をしていたんです。それを見て「男性向け作品でも同じようなことができるのではないか」と思って統計を取り始めました。
――2007年に最初の統計を出されてから毎回、何百もの作品を調べられています。統計をとるのは大変ですよね。
牧田 そうですね、集計方法はかなりアナログですから。1ページずつめくりながら『女性の顔が出て来た。カウント1』とエクセルのシートに記入しています。基本的にテーマは固定し、定点観測のように年代ごとの変化が分かるようにしています。
――意外だった結果はありますか?
牧田 それが実はあまりないんです。予め仮説を立ててから集計を始めるのですが、だいたい仮説通りの結果が出ます。予想よりも多い少ないというのはありますが。
予想外という点で言うと、集計を始めたはいいものの、ほとんどその表現が出てこなかったケースはありますね。例えば、2007年にコンドームの出現率を調べようと思ったのですが、ほとんど出てこなくて集計しなかったことがあります。
ただずっと興味を持っているテーマもありまして。それが「権力関係」です。