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男性向けでは「恋愛はあくまでスパイス」

牧田 TLは少女漫画の延長上にあるジャンルと捉えています。少女漫画に「恋愛したらセックスもするよね」「セックスから始まる恋愛もあるよね」という考え方が加わって、セックスが恋愛を描くための一要素として出てくるんです。恋愛をしたうえで抱き合って、そして最後に「これからもよろしくね」で終わります。

 男性向けはセックスが最終目的で、恋愛要素はあくまでスパイス。目的が似ているようで根っこが違います。

「13歳のためのエロマンガ統計」より「物語終了時の関係」

――男性向け作品の黒髪清楚のようなステレオタイプはあるのでしょうか。

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牧田 TLの男性はやたらとハイスペックです。「お金持ちでイケメンな彼が平凡な私を全肯定してくれる物語」がTLの様式です。だからヒーローは「君は綺麗だよ」とか「君は君のままでいいんだよ」と蝶よ花よとほめてくれる。

 男性向け作品は性器に対する「大きい」などといった性的な誉め言葉が65%と最も多く、男性が女性の容姿を誉める言葉は35%しかありません。女性が男性の容姿を誉めたセリフも、たったの6%とかなり少なかったです。

――恋愛が目的か、エロが目的かの違いが言葉にも出るんですね。一方で、同じ女性向け作品でもレディコミは全く違う印象です。

牧田 レディコミは劇画文化なので、TLとは客層が全然違います。TLは「恋した二人は仲良く暮らしましたとさ」とハッピーエンドになるのに対し、「恋愛に依存しない、やや乱暴な性行為で快楽を得るその場限りの関係」というパターンが多くなっています。そこに恋愛要素はほとんどなくて、男性向け作品と同じように享楽目的でセックスをします。作品の4割が“その場限りの関係”なんですよ。

 ただ、レディコミが男性向け作品と大きく違うところの一つは、絶頂の描かれる頻度が圧倒的に少ない点です。

「13歳のためのエロマンガ統計」より「性的絶頂描写」

「男なんか汚い、見たくない」

――それは男性向け成人漫画とは違うということですか。

牧田 男性向け作品で射精を描かないという選択肢はほとんどないんです。多くの作品で、射精が究極の快楽として描かれていると言えます。ただ、男性向け作品は射精や絶頂後はまるで“賢者タイム”のように、そそくさと物語を閉じてしまう傾向があり、余韻も何もありません。個人的にはもっと違う快楽の描かれ方があっても良いのではないかなと思います。

――先ほどの男性キャラが「性器だけの存在になる」というのも、男性の意識が性器に向いている表れということでしょうか。

牧田 「顔と性器の交換」についても思うところはあるんです。男性の体を見ると萎えるという心情は理解できます。一方で、「男なんか汚い、見たくない」という考え方は、多くの男性読者にとっての自己否定にもなってしまいます。こういった男性身体への否定は、男性向けエロマンガ全般に見られます。