2001年のイチロー以来の日本選手によるメジャーリーグMVPを受賞した大谷翔平。それ以外にも数々の名誉に輝く彼だが、実は昨年の「三振数」はメジャーワースト4位という記録も。
日本が誇る天才打者の三振数が増えているメジャー特有の事情とは? 在米ジャーナリストの志村朋哉氏の新刊『ルポ 大谷翔平』より一部を抜粋。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
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大谷は本当にすごかったのか?
「実際のところ、大谷の二刀流での活躍はどれだけすごかったのか?」
結局、ホームラン王はとれなかったし、二桁勝利にも達しなかった。チームはポストシーズン進出もならなかった。そうした事情もあって、日本では「大谷がMVPをとれるか?」が話題になっていた。私もシーズン終盤、日本のテレビや雑誌に取材を受けて何度も聞かれた。日本では大谷がホームランを連発したり、さまざまな賞に選ばれたりした時こそ、一般ニュースで大きく取り上げられていたが、彼の本当のすごさは伝わっていないと感じていた。その理由の一つとして、ここ15年くらいでアメリカで一気に進化した「野球の見方」を理解している人が少ないことが挙げられる。
アスレチックスのビリー・ビーンGMが統計分析を用いて貧乏球団をポストシーズン常連に変貌させていく様子を描いた『マネー・ボール』(マイケル・ルイス著)が2003年に発売されてから、どの球団も選手の評価やチーム編成、試合中の戦術に至るまで、「経験」や「感覚」ではなく、「データ」をもとに判断を下すようになった。メディアやファンにも、そうした野球観が広がってきている。
今回は、メジャーの最新事情を交えながら、2021年の大谷の活躍を、「データ」と「歴史的意義」という二つの視点で紐解いていく。
2018年と2021年の打撃成績を比較すると…
まずは、新人王をとった2018年と2021年の打撃成績を比べてみよう。
パッと見ても向上しているのが分かる。ア・リーグ史上でシーズン45本塁打、25盗塁を達成したのは、強靭な肉体とダイナミックなプレーで人気を博したホセ・カンセコ(1998年)と大谷だけ。パワーとスピードの組み合わせが、いかにメジャーでもずば抜けているかが分かる。
打率の低さを指摘する人もいるが、米専門家の間では打率は重視されなくなっている。というのも、打率には四死球での出塁による貢献が含まれないからである。打者にとって最も重要なのは、「アウトを与えない」こと。ヒットほどの価値はないが、四球で出塁できるのはチームにとって得点のチャンスを広げる大事なスキルである。