登板数は23試合、9勝2敗だった2021年の大谷翔平の投手成績にクローズアップ。打者としてだけでなく、投手としても大谷翔平が“傑物”といえる理由とは? 在米ジャーナリストの志村朋哉氏の新刊『ルポ 大谷翔平』より一部を抜粋。(全3回の2回目/#1、#3を読む)
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投手としての大谷翔平
次に投球成績を見てみよう。
こちらも、新人王の年を上回っている。実戦から遠ざかっていたことを考えると、さらに輝いて見えてくる。
打者としても出場する大谷は、他の先発投手よりも間隔を空けて登板しているため、投球回が規定に達していない。だが投球回130以上の投手では、防御率でメジャー22位タイにつけている。
「二桁勝利」に達しなかったことを指摘する人もいるが、全く気にする必要はない。そもそも、9勝も10勝も「キリの良さ」以外に実質的な差はない。
勝敗成績はたいして重要ではない
それに、アメリカでは投手の勝敗成績を無視する専門家が増えている。味方打線が何点とってくれるか、後続の救援投手が抑えてくれるか、といった投手自身がコントロールできない要素に大きく左右されるからだ。2021年の大谷は、リリーフ陣が打たれて白星が消えた試合が4つもあった。もちろん、6月30日のヤンキース戦のように、大谷が打たれたが味方が取り返して黒星を免れるケースもある。
5回に5点をとられても「勝ち」となり、逆に9回を1点に抑えても「負け」になるなんて、とんでもない指標である。大谷自身、勝ち星よりも防御率やWHIP(1投球回あたりに何人の走者を許したか)などの数字を気にしていると語った。
アメリカの記者の多くが投手の勝敗成績を気にしなくなったことを示す例が、2018年のサイ・ヤング賞だ。30人中29人の記者が、防御率1.70ながら10勝9敗だったメッツのジェーコブ・ディグロムに票を入れた。
逆に、投手自身が最もコントロールできる結果は三振、四死球、本塁打である。それ以外は、どうしても守備が関わってくる。ヒット性の当たりがアウトになったり、打ち取った当たりが守備の間に落ちてヒットになったりすることもある。なので、純粋な選手の実力を測るには、三振、四死球、本塁打に注目すべきと言われている。
大谷は、9回あたりの奪三振数が10.77と、130イニング以上投げた投手では9位である(ダルビッシュが10位)。9回あたりの四球数は、序盤の乱れもあって3.04で49位。しかし、後半戦だけを見ると1.28で、60イニング以上を投げた投手では1位である。
さらに、各打球の初速度と角度を考慮して防御率を算出したのがxERAという指標である。防御率から運や守備の要素を除いたxERAで、大谷は16位の3.35で、ダルビッシュと全く同じ数字だ。投手・大谷が30球団あるメジャーで、エース級だと分かってもらえるだろう。