天皇陛下が即位し、5月1日で3年が経った。2020年以降はコロナ禍によりお出ましが難しくなり、オンラインの活用など国民との交流の方法も変化した。15年以上にわたり皇室取材を続けてきた共同通信の大木賢一編集委員が見た、令和の皇室の姿とは。(全2回の2回目。前編を読む)

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62歳を迎えた天皇陛下は会見で、眞子さまのご結婚についてのバッシングにも触れられた(宮内庁提供)

誕生日会見でのさらなる進化

 新年ビデオメッセージから約2カ月後の記者会見でも「信じる」が使われた。陛下は再びコロナ禍について触れ、ある英国人の言葉を引用した。医療従事者支援のため、100歳の誕生日までに自宅の庭を歩いて100往復する活動により多額の寄付金を集めたトム・ムーアさんだ。陛下はこう語った。

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「今は確かに困難な日々を送らざるを得ませんが、一人一人が自分にできる感染防止対策を根気強く続けることで『明日は好い日になる』と私も信じ、そうなることを願わずにはいられません」

 事態の好転を「信じる」の主語は、ここでははっきりと「私」になっている。

 その1年後、今年2月の誕生日会見で、「信じる」はさらに進化した。いまだ収束しないコロナ禍について陛下はこう話した。

「長く困難な状況が続いておりますが、今しばらく、誰もがお互いを思いやりながら、痛みを分かち合い、支え合う努力を続けることにより、この厳しい現状を忍耐強く乗り越えていくことができるものと固く信じております」

 国民の努力による現状の克服を「固く」信じると言い切ったのだ。この文では主語が省略されているが、「おります」という謙譲語があることから、主語が天皇自身であることは明白だ。

欧州国王たちの「激励」

 こうした陛下の言葉遣いを見るにつけ、私の脳裏に浮かぶのは欧州各国の国王たちの言葉だ。そこには強く「激励」の気持ちが表れている。

 オランダのウィレム・アレキサンダー国王がコロナメッセージを発したのは2020(令和2)年3月。「コロナウイルスを止めることはできません。できるのは孤独というウイルスを止めることです」という文学的表現が心に残るが、このメッセージの中で国王は「慎重さ、連帯、親切心。こうした美質を保てる限り、私たちはこの危機に打ち勝つことができます」と言い切っている。国民を激励するとともに、オランダ人の持つ「美質」を高らかに宣言している。

2018年8月、三井浜を散策される天皇ご一家  ©JMPA

 同じ月に行われたノルウェーのハーラル5世国王のスピーチは「今、この時のために私はすべての方々のために祈ります」とし、日本の天皇が多用してきた「祈る」という表現を使っている。しかし、スピーチの最後は「私たちは共にあります。この先何が起きようとも」と締めくくられ、天皇にはなかなかみられない「国民への強い呼びかけ」で終わっている。