4月25日は、「卒業」「十七歳の地図」などの名曲で80年代に熱狂的なファンを醸成したロック歌手尾崎豊の31回忌だった。
死後30年が過ぎてなお支持される尾崎だが、最近ではTikTok上で、「15の夜」の中盤「盗んだバイクで~」のくだりをTikTokerが踊る投稿が中高生の間でバズるという現象も話題になっている。
少年と大人の、正常と異常の「境界」を駆け抜けたアーティスト尾崎豊。尾崎へのオマージュを、4歳年上の精神科医で、「記者のち精神科医が照らす「心/身」の境界」のWeb連載を持つ小出将則氏のForbes JAPAN Webの寄稿から転載する(全2回の2回目。1回目を読む)。
浜田省吾の名プロデューサーが担当
尾崎と吉本隆明を結んだ音楽プロデューサー、須藤晃は、東京大学を出てCBS・ソニー(当時)に入り、尾崎が好きだった浜田省吾らをプロデュースしてきた。尾崎がまだ16歳の時オーディションを受けた同社で、須藤が尾崎担当となったことが、尾崎の将来を方向づけた。
須藤は当初、尾崎の「まるで人生を悟ったかのような硬直した詞が気に入らなかった」(『尾崎豊覚え書き』)。
私には、父から学んだ短歌や勉強に励む兄の姿、そして家族で食卓を囲みながら、口角泡を飛ばし哲学を語り合う尾崎家の様子が目に浮かぶ。尾崎はそれらをバックボーンに作詞したに違いない。その証拠に、ファーストアルバムの歌詞中4曲で、「体」の字のかわりに、父に教わった躰道の「躰」を使っている。
フロムの哲学書を読んでいた
自分自身を見つめさせるため、須藤は音楽の話はあまりせずに尾崎の日常を訊いた。
「今どんな本読んでいるの?」と聞くと、カバンからエーリッヒ・フロムの『愛するということ』を取り出し」た。(同書)
フロムは新フロイト学派の精神分析家、社会学者だ。1956年に書かれた「愛するということ」は恋愛のハウツー本ではなく、「愛は『成熟した大人』だけが経験できるものであり、本当の愛を体験するためには、愛とはいかなるものかを深く学び、愛するための技術を習得する必要がある」ことをしめした哲学書だ。「『愛される』ことよりも『愛する』ことのほうがずっと重要」と説く人生の指南書でもある(鈴木晶『フロム 愛するということ(100分de名著)』(2014年、NHK出版刊)。
私も法学部時代、尾崎の兄と机を並べたかもしれぬ講義室で、フロムの著書『自由からの逃走』を読んでいた。