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全曲の歌詞中「自由」は30回、「愛」は182回

 尾崎は斃れるまでに6枚のオリジナルアルバム計71曲を紡いだ。メロディーより「詞先」と呼ばれるほど過剰な歌詞を分析した下河辺美知子によると、全曲中「自由」は30回、「愛」は182回出てくる。

「愛」は尾崎にとって終生離れられぬテーマとなった。

 強烈な上昇志向を持ち、常に自分を変革したいと願う尾崎にとって、13歳年上の教養人須藤はかっこうの教師だった。須藤は尾崎に、のちにノーベル文学賞を獲るボブ・ディランの詩や、ギンズバーグ、ヘッセ、ジャック・ロンドンらの本を薦めた。その中に、吉本隆明があったという。

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 アルバム「誕生」の冒頭で歌う「LOVE WAY」(作詞・作曲 尾崎豊)の♪真実なんてそれは共同条理の原理の嘘♪は、明らかに吉本の『共同幻想論』の影響を受けており、難解だ。

 音楽雑誌で「尾崎版『氷の世界』を目指したような曲」と評されたこともあるが、須藤との対談で尾崎は「本当のことを知ってる人が普通の恰好で同じことを歌った」と語る。「本質を客観的にみてごらん」という気持ちがあったという。だが、その言葉は若者世代に届いたとは言い難い。

 尾崎の死の2年後、吉本は女性史研究家の山下悦子とともに、尾崎の父と対談している。

 吉本はそこで尾崎を「明らかに言葉の人」で「本格的な評価をしないといけない」とし、「まったく違うようにみえても中島みゆきという人にとてもよく似ている」と印象を語っている。

 これを読んで、震えた。全く同じことを私も考えていたからだ。

「I LOVE YOU」か「OH MY LITTLE GIRL」か、それとも「15の夜」か

 尾崎豊の代表曲は何か?という陳腐だが逃せないアンケートが何回かあった。

「I LOVE YOU」や「OH MY LITTLE GIRL」といったバラードの名曲か、キーワード♪盗んだバイクで走り出す♪の「15の夜」(作詞・作曲 尾崎豊)、あるいは♪夜の校舎 窓ガラス壊してまわった♪の「卒業」(作詞・作曲 尾崎豊)が定番だ。

 尾崎のプロデューサーだった須藤晃は「卒業」を、中島みゆきの「時代」とともに後世に残る作品と評価した。とくに「卒業」は体制に対するプロテスト・ソングではなく、内省的なエレジーだったとエッセイに書いた(「Pen」5月1・15日GW合併・特集「尾崎豊、アイラブユー」 2019年475号「孤独の遺産」より)。同感である。以下、私も精神科医として中島の「あした」、尾崎の「シェリー」などをもとに考えてみたい。

 俳優の吉岡秀隆は尾崎の曲「シェリー」を聴くやいなや、電撃が走ったという。尾崎の晩年、5歳上の尾崎を兄として慕い、追悼式では弔辞を述べる関係だった。

MY FIRST OZAKI スペシャルDVD&ブック尾崎豊コレクション:『BEATCHILD1987』’s Spin-off (2013年刊、SHOGAKUKAN SELECT MOOK)、著者蔵