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「尊敬すべき大統領、直接呼びかける無礼をお許しください」ロシア人映画監督が、プーチンに語りかけたこと

ダニーラ・コズロフスキー(映画監督・俳優)――クローズアップ

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《ソ連で原発事故か/北欧に強い放射能》

 1986年4月29日、朝日新聞の朝刊一面に大きく打たれた見出し。記事は、フィンランドの放射線防護センターで、27日夜、通常を上回る放射能が検出され、原発からの漏出以外考えられないと伝えた。そのとき、何が起きていたのか――。

 全国で公開中の映画『チェルノブイリ1986』は、原子力史上最悪の事故といわれたチェルノブイリ原発事故に巻き込まれた消防士とその家族の物語。プロデューサーは、事故発生の5日後から現地取材を行ったウクライナ人のアレクサンドル・ロドニャンスキー。監督・主演を務めるのはロシア人のダニーラ・コズロフスキーだ。

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「この作品は事故の責任を誰かに求めるのではなく、恐ろしい悲劇がいかにして人々の人生をひっくり返したのか。そして、自己を犠牲にした驚くべき英雄的行動とその人間たちに焦点を当てています」

 主人公はウクライナ・ソビエト社会主義共和国の消防士アレクセイ。彼は、4月26日深夜に起きた原発事故の二次爆発を阻止するために組織された決死隊として、原発中心部で命懸けの作業をすることになる。

「登場する人々の物語をフィクションにしたのは、私たちの目的がドキュメンタリー映像を作ることではないからです。しかし、爆発事故によって原発の4号炉が全壊し10万人以上が避難したこと。炉内に溜まった水が膨張して起こる水蒸気爆発を防ぐため、3人の人間が暗闇と熱湯の中へ飛び込んで排水作業をしたことは事実に基づいた話です」

 事故は保守点検のために停止させていた原子炉が暴走して起きたといわれている。その現場で、次なる爆発を防ぐために決死の作業を行ったのが「リクビダートル」(後始末をする人、決死隊の意)だ。

「事故がどのように人々の未来を書き換えたのか。リクビダートルはなぜ“英雄”になったのか。そこに至るまでの心の動き、変化を作品の中で探ってみてください」

 91年のソ連崩壊により独立したウクライナの政府は原発の半径約30キロを立ち入り制限区域に指定し、近年は無人地帯になっていた。2000年に全原子炉が稼働停止し、16年には4号炉全体を鋼鉄製シェルターで覆う作業を完了。世界が震撼した「チェルノブイリ」は、静かに歴史に埋もれつつあった。

 だが今年2月24日のロシア軍による同原発占拠後、周辺の放射線量は上昇し、放射性物質が持ち去られたという。36年前の記憶は呼び覚まされた。ダニーラは2月27日、自身のインスタグラムでこう発信した。

《尊敬すべき大統領、直接呼びかける無礼をお許しください。この恐ろしい不幸を止められるのは貴方だけなのです。僕たちは『反対者の国民』なんかではなく、世界の中で何よりもただ平和と平穏を愛し願う自国民なのです》

 日本公開にあたり、本作の収益の一部はユニセフなどを通してウクライナの人道支援活動を行う団体に寄付される。

Danila Kozlovsky/1985年生まれ。サンクトペテルブルク国立劇場芸術アカデミー在学中に「リア王」のエドガー役で舞台デビュー。2009年、『Jolly Fellows』でドラァグクイーンを演じ世界的に注目される。『The Coach』(18)で初監督。

INFORMATION

映画『チェルノブイリ1986』(公開中)
https://chernobyl1986-movie.com/
*監督とプロデューサーのコメント全文は、本作の公式HPで公開されています。

「尊敬すべき大統領、直接呼びかける無礼をお許しください」ロシア人映画監督が、プーチンに語りかけたこと

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