「あの家族、実はMが殺したんじゃないのか?」
「そうやねん。実は俺が……」
そうしたやりとりで友人たちと盛り上がるようになっていった。
「あと1回、その話をしたら……」
そんなある日、これまで一言も話したことがないクラスメートの女子、Sさんに声をかけられ、Mさんは階段の踊り場で話をすることになった。何の話かと思ったら、Sさんは「事件の話をするのはもうやめた方が良い」と、真面目な表情で言ってきた。
人が亡くなった事件をあんな風に話すなんて、不謹慎だとでもいいたいのだろうか。自分でも少し調子に乗っている自覚はあったものの、Sさんから注意される筋合いはない。そう思い、「関係ないだろ」と返すと、Sさんはボソッとこう言った。
「あと1回、その話をしたら死ぬよ」
その真剣な顔にゾッとしたMさんは、どう言う意味だと聞いた。するとSさんは、淡々と説明をはじめた。Mさんが教室で事件の話を初めてした瞬間、教室の入口扉のあたりに白い両腕のようなものが浮かんだのだと言う。そしてMさんが事件の話をする度、それはちょっとずつ近づいて来ている……。
「今どんな状態なんよ?」
そう聞くと、Sさんは自分の首を絞めるような形をとって、「こういう状態だから……、あと1回でも喋ると、あなた死ぬよ」。
それを聞いたMさんは心底怖くなり、話を封印することにした――。
そして送別会は終わった
久保さんをはじめ、怪談で盛り上がっていた他の仲間たちもさすがに嫌な話を聞いてしまったなという表情で、重い空気が流れた。そして、そのまま送別会はお開きになった。
次の日、久保さんは宿から発つ前に、帰国するMさんと連絡先を交換した。
「帰ったら連絡します」
そうMさんに伝えて、2人は別れた。