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「彼らはヤノマミもナプ(ヤノマミ以外の人間)も敵視する。近くまで行ったことがあるが怖くて逃げた」

 一方で、大河のほとりにある集落(ベネズエラ側に多い)では街場との往来が容易なため暮らしぶりは私たちとさほど変わらない。私が同居した集落にベネズエラのヤノマミが表敬訪問に来たことがあったが、セスナから降り立った男の姿を今もはっきり覚えている。ジャケットを羽織り、真っ赤なネクタイを結び、ぴかぴかの革靴を履いていたからだ。彼はベネズエラ側のリーダーのひとりで、文明側の正装で訪れることが礼儀だと考えているようだった。それほど、文明側との接触頻度によって大きな違いが生まれる。

シャーマニズムなどの伝統が消滅しかかっている集落も

 分かっていないことも多い。私が持っている最新版の公的資料には、ブラジル側のヤノマミは人口およそ26,000人、集落の数は300と書かれている。しかし、実態が分かっているのは政府機関が恒常的な接触を続けている10カ所ほどで、他は、住んでいる場所も人口も分からず(一部のヤノマミは定期的に移動する。そうなると絶望的に分からなくなる)、ヤノマミ側からの情報をもとに推量しているに過ぎない。

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 それでも、ブラジルとベネズエラに生きるヤノマミ族は南米の先住民の中で1、2の人口を有していることは確かだろう。しかも、文明化が著しい先住民の社会にあって、伝統的な生活を持続させている数少ない集団でもあることも間違いない。私は4カ所の集落に行ったことがあるが、そのすべてで自給自足の暮らしが堅持されていた(もはや、アマゾンの先住民であっても、完全に自給自足を続ける集団は稀である)。

 とはいえ、彼らは文明側と無縁ではない。ヤノマミの集落に「文明のモノ」が流れ込んでから、既に長い時間が過ぎている。最初は鉄器、次に服やサンダル、さらには薬品に宗教。シャーマニズムなどの伝統が消滅しかかっている集落も少なくない。医薬品の劇的な効き目を目の当たりにしたとき、シャーマンに代わって「医療」が新しい信仰となる。

 

次々に「文明のモノ」が流入

 では、Wi-Fiはどうなのか。

 20カ所以上の集落に行ったことがあるというヤノマミに聞いてみた。彼は若い時から文明側の学校で学び、現在は先住民医療を請け負う公的機関に勤めている。その友人が言うには、ブラジル内のヤノマミ族保護区でWi-Fiがある集落は3カ所だという。近くに軍が駐屯している集落、伝道所がある集落、大河のほとりにあり上流に不法の金鉱山が密集する集落、である。大河のほとりにある集落(パリミ)に最近までいたというフォトジャーナリストによれば、Wi-Fiは僻地の救急医療のために使われているが(以前は無線を使っていたが、Wi-Fiの方が早く正確に情報を伝達できる)、それ以上に「彼らは外の世界と繋がりたがっている。Wi-Fiはそれを容易に可能にするツールだ」と話してくれた。