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「森に素っ裸の男たちがいる。俺たちのナイフを盗む。服も盗む。邪魔だから殺していいか」

 経営者は私に、「もちろん、殺してはダメだと命じた」と言った。私はその言葉を信用できない。本当にそう言ったとしても、現場の男たちが命令を守ったかどうか、それも信用できない。

密林での性交渉を面白おかしく語るガリンペイロ

 政府の報告によれば、少なくとも1970年代まで、その一帯には部族名不明・言語不明の集団(人数は不明だが住居の大きさや囲炉裏の数から少なくともひと家族以上)が生存していた。しかし、1986年には「ふたりだけ」になっていた(その“ふたり”は政府によってのちに“アウレとアウラ”と名付けられる)。調査報告書にはこう記されている。

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「アウレとアウラは、かつて生存していた未知の部族の“最後の生存者”である」

 各地を転々としたガリンペイロ(金鉱掘り)にも話を聞いた。ガリンペイロは法螺話が好きなので話半分なのだが、何人かが先住民保護区内での不法の採掘経験があり、「女には不自由しなかった」と答えた。男たちは下劣な描写をふんだんに交えて密林での性交渉を面白おかしく語った。そして最後には必ず、「レイプじゃないぜ。俺がモテるって話だ」と言ってゲラゲラと笑った。

 

「合法」的に開発業者を送り込もうとする政府

 現代文明には繁栄から遠く離れた「吹き溜まり」がある(先住民社会にはそのような場所はない)。都会にもあるし周縁部にもあるし森の中にもある。

 南米の場合、その最たる場所がファベーラ(都市部の貧民街。リオ・デ・ジャネイロの場合は人口の10%以上がファベーラに暮らす)とアマゾンだ。ファベーラは麻薬密売組織の拠点となっているし、アマゾンでも流入者による資源略奪が後を絶たない。何も持たない人たちが貧民街でドラッグを売り、アマゾンでは行き場のない人たちが、カネのため、生きるため、あるいは一攫千金のために森に分け入る。それを防ごうとしている人たちも少なからず存在するが、もはや、善意の努力でどうにかなる段階ではない。そもそも、アマゾンはあまりに広大で可視化することさえ難しい。今日も、侵入者は先住者の土地を奪い、犯し、殺しているかもしれないのに、そうした惨状が私たちの元に届くことはほとんどない。

 

 人権問題であると同時に、構造的な貧困問題なのだと思う。にもかかわらず、政府は重い腰をあげない。森の奥でいくら惨劇が起きようと、被害者の声を聞こうともしない。そればかりか、違法なガリンペイロや伐採人を追い出して、「合法」的に開発業者を送り込もうと画策している。そんなことが現実になれば、たとえ「合法」だろうが、同じことが起きる。

「合法」的に入り込んだ連中が、奪い、犯し、殺す。

 コロンブスが南米大陸にやってきて500年余り。森の奥では、同じ悲劇が永続的に繰り返されている。いい加減、私たちの社会は自覚すべきだ。ヤノマミから発せられる悲痛な声を加害側として受け止めるべきだ。今、強くそう思う。

写真提供=国分拓 撮影=Eduard Makino

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