もう1つの注目点は、私たちが日常的に購入しているモノ・サービスのうち、約4割がインフレ率ゼロ近辺にあるということです。
インフレとは逆に、価格が継続して低下していくことをデフレ(デフレーション)といいます。日本では価格が激しく落ちるという意味でのデフレは起きていません。その代わりに、前年比がゼロまたは小幅なマイナスという状況が、金融危機が起きた90年代後半から現在まで続いています。これが日本の「慢性デフレ」です。
この2つの事実が示しているのは、パンデミック前から続いている「慢性デフレ」を克服できないうちに、海外から「急性インフレ」が日本へ押し寄せてきている、ということです。日本経済は2つの病に同時に苦しめられているのです。
欧米各国は基本的に急性インフレの治療に専念すればいいのですが、日本は違います。そこに今後の経済運営の難しさがあるのです。
何が狂乱物価を招いたのか?
では、こうした現状を踏まえて、これから起こりうるシナリオを検討していきましょう。現時点で可能性が高いと私が見ているのは、「いまの物価高は一時的なもので、若干の上昇はあっても、1年ほどかけて落ち着くだろう」というものです。
これを聞いて、「今まさに急性インフレが日本を襲っているではないか」と、疑問に思う方もいるでしょう。ところが一部の価格が上がったとしても、それがモノ・サービス全般に広がらなければ、インフレにはなりません。
74年のオイルショックのときは国際原油価格が3ヶ月で約4倍になり、国内の石油関連商品も大幅に値上がりしました。このとき前年比で23%も物価が上昇。ときの福田赳夫大蔵大臣は、このインフレを「狂乱物価」と命名しました。
しかし狂乱物価の原因はオイルショックではないことが、その後の研究で明らかにされています。
このインフレの原因は貨幣の供給過剰でした。当時、列島改造論を掲げた田中角栄政権が大規模な財政支出をしていました。加えて、固定相場制から変動相場制に移行したばかりでしたので、円高に備え、日銀はドルを買って円を市中に大量放出していたのです。