円安は150円もあるが、問題はその後だ。元財務官の榊原英資氏による「ポスト黒田の『利上げ時代』に備えよ」を一部公開します。(「文藝春秋」2022年6月号より)
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なぜ急速に円安が進んだのか
急速な円安・ドル高が進行しています。今年3月上旬には1ドル110円台半ばだったのが、4月後半には130円近くまで下落。約20年ぶりという安値水準を突破してもなお、勢いは止まりません。
この円安は、どこまで進むのか。市場では、今年年末から来年初めにかけて140円から150円ぐらいまで円安になるだろうという予測が出ています。私も、おおむねその水準まで円安が進行するだろうと見ています。
ではなぜ、これほど急速に円安が進んだのか。その最大の理由は、日本とアメリカの金利差にあります。
アメリカはインフレが進行し、物価上昇が急激に進行しています。そのため経済の過熱を抑えるべく、当局が金融引き締めを急ぎ、金利を上げてきました。それとは対照的に、日本はデフレが長く続いてきました。ようやく物価上昇が始まったとはいえ、まだ力強い景気回復とは言えない状況です。そこで大規模緩和を続け、ゼロ金利政策を続けています。
日米の金利差が開くとどうなるか。10年物の利回りがほぼゼロに近い日本国債よりも、約3%近くまで上がった米国債を持っている方が得ですから、投資家の間では円を売ってドルを買う動きが強まる。そのため、円安が進むのです。
この基調は、当面続くでしょう。アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は、年末に向けて継続して利上げを進める構えです。欧州中央銀行も量的緩和を縮小させ、利上げに向かっている。そうした中、日本だけが今後も実質ゼロ金利を続けることが予想されるからです。
「円安は日本経済・物価にプラス」?
日本銀行の黒田東彦総裁は「円安は日本経済・物価にプラス」と繰り返し発言し、2013年3月の就任以来、推し進めてきた金融緩和路線を堅持しています。その結果、日本経済はデフレから脱却し、ようやく物価上昇率が1%台にまで回復してきました。これは黒田総裁の大きな業績であり、評価に値すると思います。
今回の円安を受けて、黒田総裁もさすがに「過度な円安はマイナス」と発言し、従来の主張を一部修正しました。しかしながら、黒田総裁が金融緩和路線そのものを大きく変更することはないでしょう。黒田総裁の任期は来年4月8日まで。そう考えると、少なくとも黒田総裁の任期中に円安基調が変わることはないとみてよいということになります。