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小学5年生の帰国子女の娘がクラスで浮いた存在に…日本人特有の「同調圧力」に悩む38歳の母親に鴻上尚史が答えた“2つの戦略”とは?

『鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』より

2022/05/29
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 娘さんは、僕と同じで、美味しい寿司を知っている。でも、クラスメイトはなんちゃっての寿司しか知らない。そういう人に、「それはおしゃれじゃないの! これはお寿司じゃないの!」と叫んでも、悲しいですが無駄なのです。

 で、娘さんに「この国のかたち」を伝えた後は、娘さんと一緒に考えます。

 敵は「日本」ですから、大ボス中の大ボスです。正面から切り込んだら、ほぼ間違いなく負けると思います。

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写真はイメージです ©iStock.com

同調圧力に対抗する2つの手段

 対抗する手段は2つ。

 ひとつはフィールドを変える。つまり、比較的同調圧力の少ない組織に移動するのです。アメリカンスクールとか自由な校風が自慢の私立、帰国子女や外国人生徒が多い学校などです。

 それが金銭や地理の関係で現実的に無理だという場合は、戦略的に戦う道を選びます。

 学校には、同調圧力にあわせて地味な服で登校します。その代わり、親しい友達とのお出かけや放課後は自分の着たいおしゃれな服を選ぶのです。この原稿を読んだU担当編集者は「塾もいいんじゃないですか?」とアドバイスをくれました。自由な雰囲気の塾なら、それも素敵です。

 クラスや学校という無記名な「日本」では、勝つ見込みはなかなかありませんが、親しい友達の間では「おしゃれ!」と受け入れられる可能性はあります。さらに「そんな格好してみたいな」と思ってもらえれば、同志が増えます。

 または、学校用に選んだ地味な服に、ワンポイント、おしゃれをするという一段上の方法もあります。大ボスが怒らないぎりぎりの範囲で戦略的におしゃれを戦うのです。

 大切なのは、学校に地味な格好をして行く時「負けた」とか「悔しい」とか「本当はこんな格好をしたくない」とかネガティブな思いにならないことです。それは、生き延びるために選んだ戦い方のひとつだと、娘さんと話すのです。

 繰り返しますが、美味しい寿司を食べたことのない人が、自発的に「おお、自分の食べている寿司はニセモノだ! こんなものは捨てよう!」なんて思うことはありません。そう思うようになるのは、本当に美味しい寿司を食べたいだけ食べた時です。

 おしゃれな娘さんは、「着たい服を自由に着る」という喜びを味わってきた。つまり、さきに美味しい寿司をたくさん食べたのです。それはとても素晴らしいことです。

 娘さんの将来がとても楽しみです。

 が、周りに本物の寿司を食べたことのない人達だけが集まりました。そして、ちらっと娘さんの姿を見て「うらやましい」と思いました。本物の寿司を食べている人を見て「美味しそう」と思ったのと同じですね。

 でも、自分は本物の寿司を食べられないから、悔しいと思います。憎い。許せないとなります。わりと普通の思考です。

 娘さんは美味しい寿司を食べた。その素晴らしい経験と喜びをねじ伏せることはないのです。学校ではない自分の時間に、おしゃれを存分に楽しみながら(または学校でもワンポイントで戦略的におしゃれを楽しみながら)、この国とうまくつきあうのです。やがて、フォトグラファーのお父さんのように、自分の意見を持ってちゃんと戦える時期も来るでしょう。

 時々、娘さんと美味しい寿司を食べながら、戦いの状況を見守ってあげて下さい。

 小さな戦いが、やがて大ボスを変える日が来ると僕は信じています。

 

小学5年生の帰国子女の娘がクラスで浮いた存在に…日本人特有の「同調圧力」に悩む38歳の母親に鴻上尚史が答えた“2つの戦略”とは?

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