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 殉職者まで出る激しい訓練をくり返す彼らに、「急降下爆撃」ではなく、体当たりしろという命令は、彼らのプライドを激しく傷つけました。

 海軍の1回目の特攻隊の隊長は、新聞記者と2人っきりになった時に「日本もお終まいだよ。ぼくのような優秀なパイロットを殺すなんて」と語ります。

 けれど、同調圧力の強い日本で、軍隊という一番同調圧力の強い組織の命令に従い、体当たりしました。

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 陸軍の1回目の特攻兵のあるパイロットは、9回出撃して9回帰ってきます。帰るたびに、「次は必ず死んでこい!」「(空母や戦艦じゃなくて)どんな船でもいいから体当たりしろ!」とののしられましたが生還しました。

 21歳の佐々木友次(ささきともじ)伍長でした。 僕は、92歳まで生きた佐々木さんに会ってインタビューしたのですが、それはまた別の話。

©文藝春秋

娘さんが苦しんでいる同調圧力は「日本そのもの」

 さて、フォトグラファーさん。なぜ、僕がこんな話をえんえんとしたかというと、娘さんが直面し、苦しんでいるのは、「日本そのもの」だということなのです。

 それも、軍隊がなくなった日本で、学校という一番同調圧力が強い組織で苦しんでいるということなのです。

 70年以上前の特攻の例を出しましたが、日本はまるで変わっていません。2018年の日大アメフト部の事件の時、監督は「学生が勝手にやった」と言い、学生は「命令だった」とコメントしました。その後、命令じゃなかったのかと監督が責められたら、どうも学生と監督の間に「乖離(かいり)があった」と言いました。これなんか、特攻が「志願」だったか「命令」だったかで戦後になって言い分が真っ向から違っていた事実と瓜二つです。僕は目眩しながら笑ってしまいました。

 フォトグラファーである旦那さんが「人目なんて気にせずにおまえらしく好きな服を着ていけばいい。同調してつまらない人間になるな」と言う気持ちもよく分かります。フォトグラファーという職業は、教師やサラリーマンに比べて、はるかに同調圧力が低いのです。

 数年前、自殺した広告代理店勤務の女性に対して、「それぐらいの残業で過労死するのは情けない」なんていう内容をネットにコメントして炎上した大学教授がいました。広告代理店の若手女性社員と大学教授では、受ける同調圧力が桁違いなのです。

 サラリーマンへの同調圧力は、服装はもちろんですが、同じ時間を過ごすことを求めます。仕事が終わっても、上司がいるから帰れないのは、会社という組織が同じ時間、空間を共有することを求めるからです。

 それに比べて、大学教授やフォトグラファーは、自分で決める時間、予定、服装の幅が大きいのです。もし、父親が銀行員とか教師なら、すぐに、日本の同調圧力の怖さを知って、娘さんに「しょうがないね」とアドバイスするでしょう。

 いえ、僕もそうしたらと言うのではありません。

 僕がえんえんと語っているのは、まず「敵を知る」ことが大切だからです。自分が何と戦っているのかを知ることは一番重要なことです。

 僕は「同調圧力の強さ」が大嫌いでずっと問題にしてきました。演劇の作品にもしたし、エッセーにも書いたし、小説にもしました。

 劇団を35年ぐらいやっていますが「どうしたら『同調圧力』を低く抑えられるか」という試行錯誤を毎日しています。